『キングコング』を殺したのは冗長さである


長い。長すぎる。
約1時間半のオリジナルを倍に引き伸ばしたせいで、勢いがなくなっている。
童貞おたく青年がお金を好きに使っていいよって言われて、好き勝手してる印象。アクション場面や背景などスペクタクルをうんと拡大してあるが、各場面とも長すぎて、緊張感がなくなっており、時計を何度も見てしまった。恐竜との格闘場面は確かにすごいが、これも長くなってくると、ハリウッド版ゴジラキングコングが出演してるような気分になってしまう。

一方、コングと、コングが恋に落ちるアン(ナオミ・ワッツ)のドラマ は、がんばってるのはわかるが、どうも不自然で説得力が弱く、色気もない。ピーター・ジャクソン監督、妖精や小人を扱ったファンタジーの『ロード・オブ・ザ・リングス』の時は気にならなかったが、美女と野獣の愛を描くこの作品に色気のなさは致命的。力関係が変わって、女が追っかける方に回る場面を除き、ナオミ・ワッツの役を少年が演じる友情物語としても成り立つような気がする。演出と彼女の色気のなさ両方だろうな。オリジナルのほうが、いかにも典型的なキャスティングで、猥雑で、余計なことを言わずに、性的な力関係が納得いくようにできてる。

下着姿でもそそらないナオミ・ワッツ(走ってる時の足は力強くて良い。叫び声もマル)をはじめ、主な登場人物はミスキャスト。ジャック・ブラックは、前人未到の島で映画をとる、という思いにとりつかれたプロデューサー役で、そのいっちゃった目が買われてのキャスティングだろうが、どうしても「スクール・オブ・ロック」の印象が強すぎて、不必要におかしい。 コングと女の仲を裂こうとする脚本家役エイドリアン・ブロディは、映画クルーが乗り込んだ船の、見習いのジミー少年を抱きしめてるほうがしっくりくる。この人ゲイだっけ?最後の場面では『あんた誰?』と言いたくなるぐらい、コングに比べ影が薄い。

主人公が窮地に陥ると、あまりにも不自然に現れる助けの手など、長い割りに、筋がご都合主義過ぎてしっくりこない。オリジナルのB級映画らしさを尊重したかったのかもしれないが、そもそも3時間はB級娯楽映画としては長すぎる。『ロード・オブ・ザ・リングス』の3時間は、盛りだくさんな原作を縮めた3時間だが、これは薄められた3時間。高いところから落ちる場面が多く、確かにフロイド的だなあ、とか、アクション場面中に思う暇があるほど長い。一番エロチックな場面は男女性器をおもわせる虫怪物との格闘だが、話の展開にも不必要で長すぎ、アクションのためのアクションになってしまっている。ジミー少年が読んでいて、繰り返し引用されるのが、コンラッドのHeart of Darkness(「地獄の黙示録」の基になった本)というのも安易。未開の土地におもむく白人という点以外に、引用の意味もなく、Bムービーに徹するなら徹してほしい。

オープニングのNYのシークエンスはもっと見たかった。大恐慌時代ならではの掘立て小屋の並んだセントラルパークにスープキッチンや高架鉄道など、見慣れないものもあるけど、基本的にあまり変わってないNYは、懐かしく新しい。ユニオンスクエアそばの歴史ある古本屋Strandの看板も目に入った。映画館の並びだ!

オリジナルでは、野生の男コングは、美女とそして都市に殺される。世界の中心NYの、世界一高かったエンパイアステイトビルから落ちて死ぬのは、百獣の王コングの文字通り fall from the grace(世界からの墜落)になっていて、涙を誘う。このリメイクでは、ジャングルの崖から、エンパイアステイトから、自分の女と一緒に、世界を見下ろす場面を繰り返しているにもかかわらず、墜落の感動はない。だって、コングはラストシーンに行くまでに、冗長さによって、すでに死んでいるのだから。