[演劇] スパイダーマン「Spider-Man: Turn Off the Dark」

U2のボノとエッジが音楽を担当し,「ライオン・キング」のジュリー・テイモアが演出するミュージカル「Spider-Man: Turn Off the Dark」は,ここ数年アメリカ演劇界の話題となってきた。ブロードウェイ史上最高の6500万ドルまで膨らみ続けた制作費と,資金不足のための上演中止の危機や度々の延期に加わり,最近では技術的な問題が報道された。11月28日のプレビュー初日前には,舞台がまだ通常のプレビュー水準に至っていないことを納得させる記事がニューヨークタイムズに載った。その中でテイモアは,プレビューの観客は,演劇芸術の制作過程とその魔法を見る機会に割引価格で恵まれるだろうと述べている。テイモアがラストシーンの演出は未定だと言い,ボノはプレビューまで9日しかないと反論し,テイモアがあなたたちはU2ツアーでオーストラリアに行ってしまうくせにと,冗談交じりではあるが口論する様子も報道された。


従って,プレビュー初日に5回も中断しなければならなかったのは,驚きではない。スパイダーマンが客席の上を飛んでメリージェーンを救う,一幕目のクライマックスでは,スパイダーマンが宙吊りになったまま降りてこれず,裏方が足を引っ張っておろし,満席の1900席から失笑がもれた。地元の新聞ニューヨークポストは,「退屈な音楽と不可解な物語の壮大な失敗作」と酷評,ニューヨークタイムズは,「(成功した)フライング場面は」とてもエキサイティングだったという,「人が飛ぶのを見たことがない」6歳の男の子のコメントを紹介している。2幕目の中断の際には,観客の女性が突然,「これはドレスリハーサルで,私たちはモルモットだ」と叫びだした。


プレビュー初日に合わせて,CBSテレビのニュース番組60 Minutesでは,リハーサルの様子やボノとエッジ,テイモアのインタビューが放映された。それを見た限りでは全く感心しなかった。6500万ドルには見えず,スパイダーマン複数が踊っている場面は,駄作だった映画のスパイダーマン3を思わせる。すでに沢山悪役がいるアメコミのスパイダーマンに,なぜギリシャ神話から着想を得た新しい悪役のスパイダーウーマンを登場させなければならないのかも理解に苦しむ。ボノとエッジ,テイモアによると,ピーター・パーカーとその分身であるスパイダーマンは,人間の弱さと偉大さの可能性の調和を求めて,魂の探求を行う存在なのだそうだ。シルク・ドゥ・ソレイユの舞台デザイナーがフライング装置をデザインしているが,最近のシルク・ドゥ・ソレイユの新作ニューヨーク公演は軒並み評判が悪い。写真は、プレビュー初日の劇場。

http://www.nytimes.com/2010/11/24/theater/24spider.html?src=me&ref=theater
http://www.guardian.co.uk/stage/2010/nov/29/spider-man-broadway-musical-preview