ウォール街デモ


経済格差に反対する若者たちが、9月17日からウォール街近くのズコッティ公園を占拠し、同公園を本拠に抗議活動を行っている。不況と失業率の増加を背景に、ウォール街に象徴されるアメリカの人口のわずか1%が富を握っていることに抗議し、「99%の私たち」の手に真の民主主義を取り戻そうとする運動である。運動開始から3週間、この運動は全米に広がり、先週からは労組も加わり、参加年齢層にも厚みが出てきた。一部デモで逮捕者が出ているのもの、今のところ収束の兆しはない。暴力的行為を避け、集会では参加者をグループ分けして、話し手の言葉をリレーしていき拡声器を使わないようにするなど、逮捕につながるような行動を行わないよう極力自制している。民主党ティーパーティー運動という見方もあるが、それは当たっていない。大企業寄りの共和党はもちろんのこと、オバマ民主党に対する失望と不信が背景になっている。既存政党を当てにせずに自分たちで行動しようという動きだ。


10月とは思えないほど暖かく晴れた8日午後、運動の拡大を目指して、ズコッティ公園からグリニッジビレッジのワシントンスクエア公園までデモが行われた。後者は、60年代から市民運動の集会場所として重要な場所である。まずズコッティ公園に行ってみた。ワシントンスクエアへのデモに出払っているかと思ったら、1ブロックだけの小さな公園は、演説し、話し合い、プラカードを作り、食事の支度をし、寝袋で寝ている泊り込みの人々に加えて、見物に来た人々でわさわさしていた。公園入り口に面した通りには警官たちが並び、入り口にはプラカードを掲げた人たちが並んでいる。ものものしい感じはない。題目にかかわらず、パレードやお祭りで人が多いから警官が出動しているという感じ。公園を訪れたおっさんが警官の一人に、「運動を解散させようとするのか?」と聞いたら、警官は「小さすぎてそれには及ばない」と答えていた。



小さすぎるかどうかは人によって意見の分かれるところだろう。今のところ、メディアはそうは見ていない。ワシントンスクエアの集会にもNBCなど全国ネットのテレビ局が来ていた。警察らしきヘリも飛んでいた。でも、その報道振りを後で見たら、逮捕者が出たわけでもないので、写真はあったが、文章はなかった。逮捕者が出るとニュースにはなるが、運動を続けていくことが難しいというジレンマである。私が見たところでは、思ったとおりというか。ニューヨークに限らず全米のリベラルな若者たちが週末行うような小規模なお祭りがそのまま続いているといった印象。アメリカでの大企業CEOの賞与額と一般社員の賃金額との差は、日本よりとんでもなく大きいし、大企業が経済を支配するのはどこの資本主義国でも一緒とはいえ、アメリカはその度合いが大きすぎる。テメエのせいで破綻した大企業を公的資金(=納税者の稼いだ金)で救済し、それらの企業のCEOががっぽり退職金もらってるのはあんまりだ。というわけで、この運動の主旨は一般庶民にとっては当たり前すぎて反対もくそもない。何で今までこのような運動が起こらなかったのか不思議なくらいだ。



通常の抗議行動と違って具体的な要求を行う代わりに、「わずか1%のウォール街のためでなく、99%の我々のための社会を」という抽象的なメッセージを発する。指導者がいない横並びの運動であり、「ジェネラル・アセンブリー」という話し合いで、今度の運動や課題について決定する仕組みだ。が、この運動が続くかどうかは微妙だ。私の近所の公園にいるような、ドレッドヘアでバックパックを背負い、犬を連れていることもある白人の若者ホームレス・タイプの人々や組合員だけでなく、こういった運動にあまり興味のない人々を持続的に取り込んでいけるかどうかが要だろう。ニューヨークの冬は半端でない寒さなので、冬が来るまでに持続できる手段を見つけることも肝心。私自身は、何か大きな進展が起きない限り、ズコッティ公園に戻ることはないと思う。



私が参加した、ワシントンスクエアで初めて開かれたアセンブリーでは、上記の抽象的なメッセージに加え、プレス、インフォメーション、アート(プラカードやパフォーマンス制作)、物資調達・管理、救護班などズコッティ公園での活動がそれぞれの担当者によって紹介された。前述したように、拡声器を使用しない参加者によるリレーなので、伝達に時間がかかり(この時は参加者が2つに別れたので、3倍の時間がかかった)複雑な内容の伝達は難しい。これらの要素が重なって受けた印象は、小学校の学級会だった。各班の活動紹介は「私は飼育係です。ウサギの世話をします」というようにも聞こえた。だが、エジプトから来たモハメッド君(写真左)の演説には感動した。「警察は我々の心に手錠をかけることはできない」など陳腐な言葉でも、「アラブの春」に実際に参加した人の言葉には重みがあった。ソーシャルメディアを通して急に広がったようにとらえられがちなエジプトの蜂起は、実際は長年の草の根的運動あってこそだった。ここアメリカでも、日本でも、時間をかけて、99%の人々がよりよく暮らしていける方向に動いていきますように。


ズコッティ公園に泊まりこむ人々




同公園。高級ブランドの袋を持って反大企業のメッセージを伝えるなど、思い思いのプラカードやパフォーマンスによる抗議。



    


ワシントンスクエア公園の参加者


同公園。ウォールストリートジャーナルをもじって、「Occupied(占拠された) Wall Street Journal」と名づけた新聞を配る。