俺がローマ法王だ

ホームレスの中年黒人が、地下鉄の中で大きな独り言を言っていた。「俺が新しいローマ法王だ。俺が新しいローマ法王だ。俺はダビデの子孫だから」。

そして、プラスチックの容器からワセリンを取り出し、広い額と後頭部にだけ生えている白髪まじりの黒い髪に塗りたくった。それから、ミネラルウォーターのボトルを聖火のように掲げ、もう一つの手で十字を切ってから水を飲んだ。顔に残ったワセリンを手やひざにのばし、フランス語でしばらくぶつぶつ言った後に立ち上がり、つぶやきを続けながら、車両のドアで彼自身を見た。席に戻り、フランス語でのつぶやきの間に「俺はNY交通局のCEOだ」などと英語をはさんだ。

イブ・サンローランのシルクジャガードらしき灰色のグラデーションのジャケットを裏返しに着て、黒の裏地にはアートっぽいしみが出来ていた。迷彩柄パンツをすごく低くはいて、ベルト代わりに女物のやわらかいコットンのグレイとピンクの花柄スカーフをしていた。ホームレスにしてはほとんど臭わず、目も澄んでいた。

これは昨夜のこと。新法王が決まってしまった今日、彼は何になっているのだろうか?