Capote

djmomo2005-10-02


様々な脇役を演じて、通な映画ファンの目を釘付けにして来たフィリップ・シーモア・ホフマンに、ついにアカデミー賞主演候補のチャンス!!

2000年にブロードウェイで見た、サム・シェパード作の再演「トゥルー・ウエスト」のジョン・C・ライリーとの共演も良かったが、ビデオで見た初演時のマルコビッチとゲイリー・シニーズにはかなわなかった。

でも、これはもうホフマンの一人舞台!!
ハンサムでも、背が高くもない、おたく眼鏡で腹が出ているホフマンの、なんと存在感ある、共感を呼ぶ演技!

1959年、「ティファニーで朝食を」などで、すでに名声を得ていたトルーマン・カポーティ(ホフマン)は、カンザスの小さな町で起きた一家4人惨殺の記事を新聞で読み、次の小説「冷血」のネタにしようと、アシスタントのハーパー・リーと共に、カンザスに取材に向う。被害者の友人や警察から話を聞いていく内に、殺人者2人の内の1人に親近感を覚えて行く自分にショックを受けるのだった。。。

スノッブなニューヨーク社交界では、ウィットに富んだ会話でお調子者を演じて、パーティーの中心となり、対照的にアメリカのハートランドカンザスでは、いじめられていた少年時代のエピソードを披露し、被害者の友人であるティーンエイジャーの信用を得る。ゲイである自分の弱みも強みも知りつくした上で、人々から事件の真実を引き出すために、相手によって効果的に自分を使い分け、人々を魅了する。

事件の犯人に強く共感しながらも、究極的には作品の題材としてであるカポーティと、作品が死刑判決をくつがえすのでは、と期待を寄せる犯人との温度差が残酷なまでに描かれる。芸術家とその対象との間の葛藤というだけでなく、自分以外の他人に対しての、共感と実体験との間の埋められない絶対的な距離をも示して、普遍的な共感を呼ぶ。

並行して、ハーパー・リーの小説To Kill a Mocking Birdが出版にいたるまでが描かれる。キャスリーン・キーナーが演じるリーは、彼女の小説同様、温かく、練れた正義感が感じられる。が、存在の根源にある絶望が、カポーティよりは浅い、幸運な人のような気がする。「冷血」という題は、殺人に対してだけでなく、カポーティ自身に向けた皮肉でもあったのではないだろうか。

スノッブなニューヨーカーという役柄と切り離せない、カポーティのお洒落にも注目。大きなスーツケース2個をたずさえての取材では、登場する度に違った服。奇をてらわない着こなし、特にコート(シープスキン、ステンカラー、Pコートなど)が素晴らしい。高級デパートのバーグドルフで買った、というニットのマフラーなど、小物のセンスも良く、ハンサムでも長身でもないのに、カッコ良い。

ジントニックマティーニが沢山出て来て、喉が渇いた。近所のお洒落じゃなくて落ち着けるバーに行って、ジントニックを頼んだら、小さいビアジョッキで出てきてびっくり。映画について考えながら、ゆっくりと日曜の午後を楽しんだ。