[映画]スリ

djmomo2005-10-08


“I believed in God for three minutes”

ロベール・ブレッソンの名作「スリ(Pickpocket)」のマルタン・ラサール演じる主人公のセリフが頭を離れない。

罪悪感を感じながらも、疎遠にしていた母が死んだ後、その遺品の少なさに、人間のはかなさ小ささを感じているミシェル。彼を密かに愛している隣人の娘に「あなたは何か信じているの?」と問いかけられての答えだ。

映画名作ベスト100には、だいたい入っているこの作品を、お気に入りの名画座Film Forumに見に行ってきた。

貧しいとはいえ、犯罪に走る確固とした理由もなく、虚無と退屈からスリの世界に足を踏み入れて行く青年を描く。「アモーレス・ペロス」のガエル・ガルシア・ベルナルと似た印象的な目をしているが、彼もスリ仲間も、よくぞキャスティングした!と思う無表情な顔で、ちっぽけな犯罪を働いていく。

1959年の作品だが、虚無と退屈の70年代パンク(つまりチンピラ)を先取りしているかのようだ。同じ年に、ゴダールがチンピラを主人公に「勝手にしやがれ」で、トリュフォーが少年犯罪をテーマに「大人は判ってくれない」でデビューしたのを考えると、興味深い。

ドストエフスキーの「罪と罰」に着想を得ているが、心理描写は殆どない。スリの技術を、乾いたユーモアと鮮やかでスピーディーなカットで描くことで逆に、観客に彼らの心情を感じさせる、憎い演出だ。スリの先輩に酒場で教わる、新聞紙などの小道具使いや、組になっての連携プレイ、ピンポールマシーンを使っての指先の訓練には笑わされる。

スリ技術の淡々とした、非常に視覚的な描写といい、更正するチャンスを与えるため、泳がせて様子を見る人情味ある刑事(?)といい、池波正太郎鬼平犯科帳にある『女掏摸お富』を連想してしょうがなかった。池波正太郎のフランス映画好きは有名だし、『お富』は1968年の作品。この映画からヒントを得ていないはずはない、と思って調べてみたが、残念ながら分からなかった。筋と映画的な描写は似ているものの、スリの心理は全く違うが。お富は、必要に迫られて旧悪に戻って行くうちに、スリ行為に性的とも言える快感を抱くが、この青年は全く覚めているのだ。