最高の誕生日

   
37年間で最高の誕生日だった。前にもそう思った誕生日を経験してるはずだけど、今は、今がいちばん。

土曜午後は、メインの誕生日プレゼントである、空中ブランコのレッスンを初体験。先週のカヤック同様にハドソン川沿いだが、これはダウンタウンにあり、ウォール街の高層ビルや自由の女神が見える。前日はひどい大雨で、この日も予報は雨だったのに、見事に晴れた。私の誕生日とその前後は、いつも気持ちいい秋晴れだ。

クラスが始まる直前まで、ただわくわくしていた。トレーナーたちがハーネスなしで宙を飛ぶ姿は優雅だが、大して難しそうでも危険にも見えない。本当にこれやるの?という気持ちよりは、本当に飛ぶんだ!という気持ちのほうが強い。が、いったん低いバーにぶらさがり、バーに足をかけ、手を離して逆さにぶら下がる練習をすると、冗談じゃない、と思った。練習用のバーは低いといっても、身長152センチの私が自力で届かない高さで、小学校の校庭の鉄棒とは勝手が違う。腹筋は鍛えているのに、トレーナーに支えてもらい、足をバーにかけた。その後、地上でテイクオフの姿勢と、着地の時のばくてん宙返り(といっても片足で前後にキックするだけ)の練習をして、もう飛行開始!

10人中、エドの順番は一番最初。半分は誕生パーティーの小学生女子で、後は大人。男はエドだけ。一番目に選ばれたショックもいえないままのエドは、ジェットコースター状態で絶叫しながらの飛行。私までのどが渇いてくる。私のすぐ前は小学1年ぐらいの小さな女の子。彼女にできて私にできないことはないはず。順番を待っている間に、地上でハーネスをつけてからはしごを上がり、地上23フィート(約7メートル)のスタート台に立つのだが、ベルトにハーネスがなかなかつけられなくてあせる。

スタート台からつま先だけ出して、右手を前に出し、左は支えをつかんで、胸を思い切り前に張る。へっぴり腰にならないよう、腕をまっすぐ伸ばすのがポイント。右手でブランコのバーをつかみ、次に左手。バーは結構重く、腕を伸ばしきってやっと届くので不安になる。”Ready, Hop!”の合図で飛行開始。え、ほんとに飛んでる。叫びはしなかったが、後で写真を見たら、あんぐりと口を開けていた。重力がないから、足掛けは地上でやるより簡単で、トレーナーの号令に反射的に従っている(反射神経が鈍い私なのに驚き)。ばくてんは、ぶらさがってる間にタイミングをはずし、うつぶせにネットとキス。痛くはない。唯一痛いのはネットから降りる時で、輪になったロープに手をかけて体を反転させる際に、片手が引っ張られるのぐらい。

心臓がどきどきしてる。また飛びたい。もっとうまく。
エドは体が痛いといって、順番をゆずってくれ、結局4回飛んだ。どきどきがおさまるにつれ、だんだんうまくなり、最後にはきれいにばくてんが決まった。最後は慣れてきて、トレーナーの声が騒音で聞き取りにくかったこともあり、前半部分の集中力が少し落ちてしまったほど。うまい人は、慣れと集中力のバランスが取れてるわけで、やっぱり大変なスポーツなのかもしれない。

飛行を祝して、家の近所のアイリッシュパブでビールを飲み、スーパーマーケットに寄って帰宅。撮ったばかりの写真とビデオを見て盛り上がる。本当に飛んだんだ!夕食は久しぶりに、にらとキャベツが沢山入った餃子。間違ってワンタン皮を買ってしまったが、何とか形にする。焼き方を工夫したら、皮がぱりぱりでラーメン屋の餃子のように美味い。

翌日の誕生日は、二人とも手足と腹筋、特に腕の付け根が痛い。ヨガは不思議と補完エクソサイズになるのか、普通にできたが、トイレでのレバーやジーンズの上げ下ろしですら痛い。でも、エドが高山病と食あたりで寝込んでしまった7月のペルー旅行と違い、痛みを共有できるのは素晴らしい。

次の土曜にジョン・ケージ・フェスティバルに出演するので、リハーサルをする。私は「アリア」を、エドは「バリエーションII」を同時に演奏することになっている。初めて合わせたので心配だったが、2回通したら、タイミングも合って、うまくいった。全く別々の作品で、お互いの音に反応しているわけではないが、そのように聞こえる。

少々スランプ気味だったので、リフレッシュするために、この週末は音楽から遠ざかろうと思っていた。が、リハーサルで機嫌を良くして、初のソロ・ターンテーブルCDのカバー・デザインにも、エドに協力してもらってとりかかる。二人でアイデアを出し合い、ほぼ完成。なんてアイキャッチーで可愛いんだ!あとはCD自体のデザインだけ。早く皆に見せたい。

ディナーは、お洒落して、前から気になっていた近所の日本食レストランへ。新しく買ったプリントのワンピースに、素足でストラップ付きヒール。この日もよく晴れていたので、ガーデンに座る。辛口の司牡丹に、ゴマ豆腐入り枝豆スープ、並寿司、エドは春巻きと串揚げ、焼き鮭。しめさばの寿司は美味しかったが、後はまあまあで、ほっぺた落ちるほどではない。日曜は魚市場が休みだから仕方ないか。

家に戻り、昨日からエドが「何か絶対当たらない」と自慢してきたプレゼントを開ける。何と、ペルー旅行の合成写真。マチュピチュを訪れるのは、私の子供の頃からの夢だったが、上記のようにエドが寝込み、私だけが訪問してがっかりだった。エドの体調も私の機嫌も回復した時に、合成写真を作ったら面白いね、どうせなら家の二匹の猫たちも一緒に、と話してた。私はそのことをすっかり忘れてたのに、マチュピチュだけでなく全部で27枚も!私の隣に元気そうなエドがいて、猫は遺跡で昼寝したり、けんかしたり、巨大猫になって山の向こうからこちらを見ていたりする。一枚一枚めくるたびに、笑いすぎて涙が出てきた。こんな手間のかかる、一緒に笑えるプレゼント、何て最高なんだろう!どうもありがとう。飛んだり、笑ったり、落ち込んだときに元気が出る元を、目一杯補給できた週末だった。
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