Jesus Camp ジーザス・キャンプ


ノースダコタにあるキリスト教原理主義者のサマーキャンプで、神の兵士として洗脳される小学生たちを描いたドキュメンタリー映画。主催者のフィッシャー牧師というスーパーサイズなオバサンは、敵であるイスラム教徒が原理教キャンプで子供たちを訓練しているのに対抗し、アメリカをキリスト教徒の手に取り戻すための戦士を育てている、と語る。

フィッシャー牧師は「これは戦争だ!」と子供たちにむかって叫び、クリスチャン・ヒップホップに合わせて歌い踊る子供たちの姿は、「サウスパーク」のエピソードのようにシュールだが、現実はフィクションよりも奇妙だ。さらに不条理なのは、中絶に反対するブッシュ大統領の等身大写真を拝まされ、胎児の人形を手に持って、泣きながら中絶に反対する子供たちの姿だ。まだ6-12歳くらいで、子供をどうやって作るかも知らないような年齢なのに。

ここで取り上げられているキリスト教の宗派は、最近アメリカで勢力を広げつつあるEvangelical(福音派)だ。字義通りに聖書を解釈し、進化論を否定するため、原理教家庭の子供は学校に行かず、親が子供を教えることもある。フィッシャー牧師は、自分たちの主張は政治的ではない、と語るが、実際には福音派などの原理主義者たちは、妊娠中絶やゲイの結婚に反対して、ワシントンに圧力をかけていることは周知の通りだ。

キリスト教アメリカ至上主義のブッシュと、One nation under God(神の元には一つの国しか存在しない)と叫ぶ子供たちの姿が重なり、アメリカにいるキリスト教徒以外は敵である、という恐怖の信仰が浮かび上がってくる。フィッシャー牧師は、病めるアメリカを治すための戦い、と繰り返し語る。だが、キャンプこそが、病めるアメリカそのもので、子供たちは大人が作り出した罪を背負わされているように見える。

映画に登場する、福音派を批判する左翼ラジオ番組のDJによると、自分がEvangelicalだと思うアメリカ人は25%だという。保守的なキリスト教徒であるEvangelicalは原理主義者を含むが、全てのEvangelicalが原理主義者ではない。映画に登場するのは過激な原理主義者だけだが、福音派全体ではどうなのかが見えづらい。また、ラジオDJは、映像から観客が感じられるメッセージを繰り返して、映像の強烈なインパクトを弱めてしまっているのが残念だ。

映画では描かれていないが、これら洗脳された子供たちが思春期を迎えたら、どうなるのだろう。新しい世代の神の戦士として行動するのか、性に目覚めて普通の子供に戻るのだろうか。アメリカの未来は彼らの手の中にある。

追記: 「ジーザス・キャンプ」に登場する全米福音協会(National Association of Evangelicals)のテッド・ハガード理事長は同性愛行為を指摘され、11月4日辞任。メガチャーチ「ニュー・ライフ・チャーチ」の牧師も一時的に退く。ハガードは「聖書に書いてあり、議論の余地もない」と同性愛を非難してきた。政治的影響力も強く、ホワイトハウスとの電話会議を週一回行っている、とされている。
http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200611050016.html