「Climates」気候(原題iklimler)

2003年「ウザク」でカンヌ・グランプリを受賞したヌリ・ビルゲ・ジェイラン(Nuri Bilge Ceylan)監督の新作。沈黙が多く、集中力を要求される、アントニオーニを思わせるヨーロッパ風芸術映画で、ビデオで見たら眠ってしまうかもしれないけど、不思議と後を引く作品。

暑い夏、40代半ばの大学教授イサ(監督自身が演じている)と20歳年下の恋人でTVディレクターのバハール(監督の妻、エブル・ジェイラン)は、トルコ南部のリゾート地にある遺跡と海を訪れる。二人の不和の兆候はあちこちに見られ、バハールは一人で休暇先から去る。雨がちな秋のイスタンブール、イサは元恋人に会う。冬、イサはバハールを取り戻そうと、彼女が働いている大雪のトルコ東部に旅立つ。。。

気候の変化によって、登場人物の心の動きが表される単純な作り。汗の一滴ずつが見えるような顔の超クローズアップの連続、驚くほどはっきりした虫の羽音などの環境音。せりふも音楽もほとんどなく、単純で日常的な会話が殆どだが、その分、映像は言葉よりも雄弁に、繊細な表情やしぐさ、美しい風景と気候の変化を通して登場人物の感情を描き、人間がお互いをいかに遠ざけるか、ということについて考察している。

という意図は分かるが、沈黙の間に登場人物に対する共感は育たなかった。二人とも、悪人とはいえないほどに少しずつ嫌なヤツで、好きにも嫌いにもなれない。監督は、セルジュ・ゲーンズブールを普通っぽくした感じのなかなかいい男ではあるけど。男女のすれ違いを描く演技は二人ともうまくて、私生活の暴露というよりはプロの仕事を感じる。が、作品の終わりの「(この作品を)息子にささげる」とのクレジットを見た途端に,人それぞれが持つ孤独と、それによっておこる不幸は、どんな恋人同士や夫婦の間でも起こりうるのだなあ、とじわじわと感じてきた。

トルコ映画を見るのは初めてなので、風景も興味深かった。イスタンブールは街並みもアパートの中もヨーロッパみたいで、地方に行くとよりトルコらしい感じ。海水浴に行くときに持っていくのが、何とビニールの縁のついたござ!トルコの習慣なのだろうか?裕福そうなカップルとござの組み合わせが印象的で、トルコの中のアジアを感じた。