The Fountain ファウンテン

大傑作「レクイエム・フォー・ドリーム」以来、待ちに待ったダーレン・アロノフスキーの6年ぶりの新作だが、大方の批評どおり退屈で出来が良くない。

現代。科学者のヒュー・ジャックマンは、脳腫瘍で死にかけている妻(レイチェル・ワイズ)の治療法を発見しようと懸命になるが、残された時間は少ない。妻は、書きかけの小説「The Fountain」を夫に託し、続きを書いてくれるよう頼む。小説の中は16世紀で、スペインの女王であるワイズの命令で、ジャックマンは生命の樹を新世界に探す。過去と現在、未来が混ざり合って描かれ、26世紀のジャックマンは宇宙飛行士で、ワイズは死にかけた大樹。

主人公二人は見目麗しい(特にヒュー・ジャックマン)が、個性も微妙な演技も要求されておらず、感情移入の余地はない。レイチェル・ワイズ(実生活ではアロノフスキーの婚約者)は脳腫瘍で五感がなくなっていく役のはずだが、風呂場でジャックマンとセックスしている、と突っ込みたくなる。脇役にいたっては全く人格がなく、アシスタントその1、その2といった具合。ジャックマンの上司を演じるエレン・バースティンも彼女である必要全くなし。

ゴールドと黒を基調にした宇宙の映像は美しいが、脳内麻薬を注入されたようだった「レクイエム」の、登場人物の感覚表現とシンクしたジャンプカットの衝撃はない。「π」では数字に、「レクイエム」ではドラッグにとりつかれた人々を描いてきたアロノフスキー、新作では時空を超えた愛にとりつかれたカップルを描こうとしているが、表面的で、とりつかれるほどの愛の強さは伝わってこない。

物語も音楽も、シンプルな繰り返しが多く退屈だ。「レクイエム」では、クロノスのストリングスとクラブミュージックのコントラストが強烈だった。演奏はここでもクロノスだが、ニューエイジ的クラシック(ウー&アー)モチーフの反復ばかり。

未来の宇宙の場面は美しい映像にもかかわらず、安っぽいニューエイジ神秘主義風で、入門編ヨガ・ビデオのようだ。私もヨガは毎週やっていて、この映画を見た前日もヨガ呼吸法のワークショップに行ってきたばかりだが、精神世界は頭の中にあるからいいのであって(蓮華座に座り、瞑想しながら生命の樹を見つけるジャックマン)映像にしてしまうと、胡散臭さを避けるのは至難の業だ。

作曲、撮影、編集、制作など前作からのスタッフも多く、6年も間が空いた新作の内容を合わせて考えると、アロノフスキー監督は自分の好きな一握りの人たちと好きなことをやるのを大切にするが、商売っ気はあまりない印象を受ける。次回作(もしあるとすれば。最近のインタビューhttp://www.avclub.com/content/node/55490では、IMDbで制作中となっている「子連れ狼」の制作は未定だと言っている)で非常にがんばらない限り、一部でのカルト的人気はあっても、商業的には終わった気がする。というのがきつすぎれば、少なくとも「レクイエム」を内容的にも興行的にも超える作品を撮ることはないだろう、と思った。