Up シリーズ

djmomo2007-02-03


1964年7歳から始まり、様々な社会経済的背景を持つイギリスの子供14人の人生を7年ごとに追っていくTVドキュメンタリーで、現在49歳(「49 Up」)までが制作されている。年を追うごとに、階級や育ちや子供のころからの性向により形成された人格がそのまま残っていたり、その後の出来事によってそれらが変化していく様子がはっきりと見えることの両方に、ただただ感心する。細かいコメントを書くときりがないが、とにかく見て、実際の人々の人生を感じて欲しい。今までに制作されたドキュメンタリーの中で、最高の作品の一つだと思う。

7歳の子供の属する階級が、その後の彼らの人生を決定する、という仮定の元にスタートした番組だが、彼らの人生を追っていくことは、仮定の実証または否定以上のものだ。なぜなら、彼らは観察対象という言葉ではくくれない、一人ひとり違ったリアルな人間で、映像はそれらを簡潔明確に伝えているからだ。インタビューの内容、しゃべり方だけでなく、容姿や服装(着ている物を見ればその人の属する階級がはっきり分かるイギリスならでは)職業、住む場所、パートナーの変化、撮られ続けることに関する影響など、何という情報量を安々とつきつけてくる映像だろう。アメリカで最も影響力のある批評家の一人、ロジャー・イーバートは「殆どノーブルといえる映像の使用法」と絶賛する。

他人の人生を覗き見したいというタブロイド紙的な下世話さと、高い知性のコンビネーションの妙が感じられる作りでもある。両親の離婚について、早すぎた結婚について、前の放送分と比べて自分の人生は失敗だと思うか、などずばりトラウマにふれるような質問が繰り出され、それらに対する反応が容赦なく映し出される。長年の関係の中で相手を良く知り、会話のウォームアップをした上で引き出せる映像だろう。編集のすばらしさは言うまでもない。

21歳以降、番組への参加を拒否している人もいるが、いなくても彼らのことが気になってしまうほどで、年を重ねるごとにより身近になっていく友達が、好き嫌いは別として14人出来たようだ。ちなみに、私のお気に入りは、ヨークシャーデールの農家の息子、ニック。7歳の時「ガールフレンドはいる?」という質問に、照れながら、注意深く言葉を選んで「その手の質問には答えない」と言った、頭が良く純粋な7歳児は、49歳になっても彼の中に生きている。