日米贈答考

  
#7月4日の独立記念日の花火をアパートの屋上から見る。花火自体は、日本のほうが断然すごいが、演出のうまさと、映画館のように周りで見ている人たちの合いの手で楽しめる。バーベキューもお約束。

前回の日記に書いたように、実家の母がNYを訪れた。義理の母にも久々に会うことになり、手土産は何が良いか、母からたずねられた。アメリカでは初対面の人やふだん行き来していない人から物をもらうことはないので、前回の渡米の際は義理の家族を困惑させ、余計な気遣いをさせてしまった。が、8年もたてば、母がそれを忘れるのもしょうがない。母は手ぶらが居心地悪そうだったが、義母は知らないことに出会うとパニック気味になるので、彼女のストレスの方が大きいと判断し、一切手土産を持ってこないよう、母に頼んだ。それでも義理の母はもしかしたら、とよほど不安になったのだろう、チョコレートを持って約束のレストランに現れた。彼女のフライングにより、次回からはお互い手土産なし、ということが、笑いと共にやっと両方に浸透した。

前置きが長くなったが、この経験をきっかけに、日米の贈答習慣について考えてみた。
まず、手土産という言葉。今回の経験でやっと、義理の家族(中国系アメリカ人だが、生活習慣はほぼアメリカ人)が納得する説明ができるようになった。以前は辞書に載っているとおり、presentとかsouvenirと訳してしまい、なんで会ったことがない人に唐突に物をもらい、お返しの心配までしなければならないのだろう、というありがた迷惑な印象を与えていた。アメリカでプレゼントを贈る機会は、クリスマスと誕生日、バレンタイン(恋人や夫婦に限らず男女両方から)と結婚記念日(節目の年以外はディナーに出かけるだけの方が多い、と思う)、結婚や出産(ベイビーシャワー)のお祝いくらいだ。

「手土産」の私なりの訳はgreeting gift、つまり挨拶のギフト。うちの娘がお世話になってます、とか、どうぞよろしく、といった挨拶に伴うものだ。ビジネスの場だったら、名刺の付属品ともいえるから、手土産にはある程度フォーマルな外見が要求される。が、名刺そのものではなく、よほどひどいものでない限り、土産を渡した人の人格が後々まで疑われることはない。実用より儀礼的側面が強く、私の家に泊まる人々の手土産も、茶やせんべいなど、まあどうでもいい(失礼!)物が多い。フォーマルさはブランドや箱、包装紙で表されるから、日本ではあらかじめ箱詰めになった進物がどこでも手に入る。アメリカでは、グルメ食料品店などでブリキの缶に入ったクッキーやキャンディが売られていることもあるが例外的で、普通はその場で一つづつ選んでテイクアウト用の箱(化粧箱ではない)に入れてもらうか、簡易包装されているものをそのまま持っていく。

アメリカにも手土産の習慣はあるが、友人の家やパーティーに行く際に、ビールやワイン、甘いものなど、その場で食べたり飲んだりするものを持参する、という実用的な目的が強い。アメリカ人の友人が私の家に泊まるとき、手土産を持ってくることはない。一緒に飲むビールを買ってきてくれたり、食事をおごってくれた方が助かるし、実際に彼らもそうしてくれる。

近所や職場に旅行のお土産を配る習慣もない。私が勤めていた日系の会社では、日本人はお土産のやり取りを行うが、納豆が食べれるアメリカ人でも、お土産は配っていなかった。が、夫の同僚のロシア人は、職場でお土産を配るそうだ。

日本の正月同様に、離れている家族が集まるクリスマスのプレゼント交換は、ユダヤ系などクリスマスを祝わない人々はのぞき、アメリカ最大の贈り物の機会だ。プレゼント交換がある会社もある。家族一人一人にそれぞれに合ったプレゼントとカードを選ばなければいけないのは、大仕事だ。本命プレゼントだけでなく、stocking stuffersといってツリーに下げる靴下につめるような、小さいプレゼントも一人一人に贈るのが正統派だが(確かに数があったほうが、ツリーの下に置いて見栄えがする)面倒くさいし、金額的にもかなり負担になるので、子供がいる家には子供にだけプレゼントして終わり、とかお互いに今年はプレゼントなし、というのもあり。families.comに載っていた2005年の数字では、アメリカ人がクリスマスプレゼントに費やす金額は平均750ドル。大人二人の家庭では1500ドルという計算になる。それに加えて、ご馳走を作ったり、離れている家族の場合は移動費もかかるし、物入りだ。

相手に喜んでもらえるプレゼント選びは悩みの種で、メイシーズデパートのギフトカードが、リレーのように家族の間を回っていた年もあった。ギフトカードほどそっけなくなく、かたちがつくのはGapやBanana Republicなど全国チェーン店の服。無難なだけでなく、気に入らなかったら交換も容易なので(要ギフトレシート)クリスマス後はそういった店のレジに列ができる。とにかく、クリスマス(と誕生日&バレンタイン)のプレゼント交換は大事業なので、それ以外のギフトの習慣なんてまっぴらごめんだと、アメリカ人は思っている。

アメリカでのプレゼント交換で、まず日本人が驚くのはラッピングの豪快なあけ方だ。きれいにラッピングされていても、ばりばりっと包装紙をはがす。日本人がやるように、包装紙やリボンを取っておく人は見たことがない。クリスマスにはプレゼントの数も多く、床はラッピングペーパーだらけになるので、プレゼントをお互いに見せ終わると、すぐに大きな袋を持ってきて、それらの包装紙をどさっと捨てる。普段はきちんとリサイクルしている私でも、特別な日だしまあいいか、と思ってしまう。

日本人がアメリカを訪問する際の手土産について。くどくど書いてきたとおり、手ぶらでも失礼に当たらないはず。何かしたかったら、レストランで勘定を持った方がスマート。でも、どうしても持っていきたかったら。

日本茶:茶の専門店も増えてきたとはいえ、アメリカはコーヒーの国で、茶をほとんど飲まない人も多い。ましてや、葉から茶を入れる人はアジア系以外、少ない気がする。ティーバッグの方が飲んでくれる確率は絶対に高い。

食べ物は甘いものより、ライスクラッカーとしてデリにも売っているあられの方が、受けがいいはず。せんべいよりもあられが食べやすい。

日本の物:都会で働き、ある程度収入がある人たちや、日系企業で働いている人たち、日本の漫画やアニメ、音楽が好きなおたく系など日本文化に関心がある人は、全体として少数派。人を選んで贈るべし。また、日本文化に詳しい人を除き、良し悪しもあまり分からないことが多く、高級品を送るのは無駄。NYで日本のものを売る店や日本料理店を見ても、日本人が良いと思う感覚と、外国人が好きな日本とはずれている。とはいえ、私がNYに来た12年前より、NYのそれらの店の数も増え、質も上がってきたので、日本文化への関心と質は上がってきている、と見ていいだろう。