ビデオ日記

「The Private Life of a Cat」
http://video.google.com/videoplay?docid=-2178549355147351892
前衛映画作家マヤ・デレンの夫が1944年に撮った白黒無声短編映画だが、ちっとも前衛ではない。一軒のアパートに住む猫の求愛から出産、子育てを淡々と描く、真の猫好きが撮った、動物映画の傑作。。字幕も最低限に抑えられ、音楽もないが、猫たちの鳴き声とそれが意味するところが聞こえてくる。5匹の出産を一匹ずつとらえた場面など、その忍耐にひたすら頭が下がる。編集も素晴らしい。「皇帝ペンギン」より100倍感動的。

「グリース」Grease/「ハイスクール・ミュージカルHigh School Musical
どちらも、同じ高校に通うが、別の世界に属する少年と少女が困難を乗り越えて一緒になるファンタジーだが、「ハイスクール」はさらにありえない話。前者のありえなさは物語上必要である範囲に留まるが、ディズニー制作の後者は、悪いものにはふたをしようという強烈な意志と、まんべんなく行き渡ったPC(ラティーノ、日系、ガリ勉、ゲイ、デブなど)はカルト宗教的だ。同時に、後者の方が設定からファッションまで商業的であるのは言うまでもない。前者が50年代をパロディ化しながらオマージュを捧げているのに対し、後者は大真面目なのにパロディに見える。優等生の少女がボーイフレンドにならってワル(といっても学校に来てるので本物の悪ではない)になりハッピーエンドで終わる前者に対し、後者は優等生とスポーツマンがそれぞれ自分自身であり続けることで、周りが変わって行き、恋も友情も勉強もスポーツも全てうまくいく(「自分自身であれば、全てうまくいく教」という感じ)。
グリースはティーンの男女共に楽しめたが、後者はトゥイーンの女の子向け。出てくる男の子は、女の子がこうあって欲しい、と思う少年たちで、少年たちに聞いたら「ゲイ!」という答えが返ってきそうだ。前者はTVのオーディション番組で選ばれた主役により、ブロードウェイで再演オープン、後者の舞台化も米国ツアーが始まった。

「Bloodsucking Freaks」ばかばかしいグロさで悪趣味極まりないが、楽しみながら作ってる雰囲気が伝わってくる。

ザナドゥXanadu この悪趣味さは、Bムービー好きでもひたすら苦痛。ミュージカル版はブロードウェイで好評上演中。

ああ爆弾」「殺人狂時代」 面白すぎる。

野良猫ロック セックスハンター」
完璧ではないが、作品全体を通してパワーがあふれる。見直してみると、藤竜也はセックスシンボルというより屈折した性格を演じる性格俳優。梶芽衣子には時代も国境も超えた後光が差していて、藤竜也と安岡力也と二人がかりで、何とか対抗している。

「Kill Your Idols」
70年代後期−80年代初めのNYノーウェイブと、彼らに影響を受けた、ヤーヤーヤーズやブラックダイスなど最近のロックバンドについてのドキュメンタリー。リディア・リンチやアート・リンゼイら元祖ノーウェイブが最近のバンドを名指しで批判し、Kill Your Studentsという題名の方がふさわしく、見ていて気持ちのいいものではない。元祖の音の方が面白いのも、映画にしなくても分かっていたことで、制作意図不明の作品。

「Blackhole」
正当派すぎるSFと分かりにくい物語に、寝てしまったダニー・ボイル監督の新作「サンシャイン」より、この1979年作のディズニーSFの方が面白かった。赤が効果的に使われている宇宙空間や宇宙船の、絵心を感じる美術が印象的。

ウィンチェスター銃’73 」Winchester ‘73
表題のライフルを奪われたジミー・スチュワートが、カウボーイの魂のような名銃を取り返そうとする追跡&復讐劇。ライフルをめぐる男たちの執着と、好感の持てるスチュワートがふとのぞかせる、恐怖と絶望、狂気の淵の表現が素晴らしい。

「夜」La Notte
金持ちのアンニュイを描いていても、つい寝てしまった「情事」よりこの方が、他人事感が少なくて面白い。中年夫婦の心の痛みが、ぐさぐさ突き刺さってくる。「夜」のマストロヤンニとジャンヌ・モローの方が馴染みがあり、役者としても面白いからか、「情事」のモニカ・ビッティが非人間的にきれいすぎるからか、リゾートでなく都会が舞台だからか。アントニオーニの冥福を祈りつつ。

ノートルダムのせむし男」The Hunchback of Notre Dame
15世紀のパリを描いた1939年作の映画とは思えないほど現代的。偏見とその克服、教会と王、司法のパワーゲーム、権力への抗議方法の比較(メディアおよび物理的な圧力を使用)、愛と狂信などが、チャールズ・ロートンセドリック・ハードウィックらの名演により描かれる。

ニュールンベルグ裁判」Judgment at Nuremberg
息がつまるような法廷場面での見所も多く、緩急のバランスも良いので、3時間が長く感じられないが、何と言ってもいちばんの山場は、バート・ランカスター演じる元司法大臣ヤニング被告の独白。被告側弁護士は、ナチスに協力した法律学者たちを、一般のドイツ人同様に収容所で何が行われているか知らなかった、彼らが有罪なら全ドイツ人も有罪だ、と罪を一般化して弁護する。が、ヤニングはナチスの正体を知りながら、見てみぬふりをした罪を認める。第一次大戦後、ドイツ人であることの誇りを失いかけていた国民を、ユダヤ人などスケープゴートへの攻撃により、鼓舞し一つにしたナチスのやり口について、ヤニングが語れば語るほど、アメリカの歴代の政策とも共通した、恐怖を利用した支配の姿が見えてくる。

或る殺人」Anatomy of a Murder
ジミー・スチュワート被告弁護人のユーモアあふれる弁護とエリントンの音楽(スチュワートとのピアノの連弾!)が楽しい“ムード法廷映画“だが、原作物とはいえその軽さに2時間40分という長さが不釣合い。