ウッドストック〜NY

先月21−23日の週末に、NY郊外ウッドストックを訪れた。その地名から連想するのは1969年の音楽祭だが、開催されたのはウッドストックから70キロほど離れたべセルという町。それでも、ウッドストックはアート&クラフトや音楽家のコロニーとして歴史があり、キャッツキル・マウンテンに位置しているためハイキングも楽しめる、と期待して出かけた。ヒッピーのラスベガス的な町なのでは、という恐れも抱きながら。

が、めぼしい野外コンサートなどはすでにシーズンオフ、ギャラリーや美術館も日曜12時からオープンというやる気のなさで、時間が合わず見れなかった。朝食を食べ、観光客向けに早くからオープンしているヒッピー系の店や高いブティック数軒を見てしまうと、朝は何もすることがない。夜も殆どの店は閉まってしまう。レストランは味は悪くないが高め。期待していたアンティークやフリーマーケットも、教会のバザーでアンティークのクリスマス・オーナメントを格安で手に入れた以外は目ぼしい物なし。泊まったB&Bは一泊129ドルと妥当な値段だったが、宿の人は観光案内の知識がなく、観光案内所も開くのが遅くて使えない。ウッドストックという名前で商売しているくせにやる気がなく、気位だけ高い町、という印象。あいさつを返してくる人は半分くらいで、町中の家や景色の良い場所あちこちにprivate property(私有地)というサインが見える。

町からハイキングコース入り口までの上り坂まで休み休みたどりつくのに二時間ほどかかり、レンタカーすればよかった。下りは町の住民でない人が車に乗せてくれた。写真の仏教寺院でひざまずいて祈っていた老人だ。新しくぴかぴかすぎる寺院は感心しなかったが、仏教精神を身につけた親切はありがたい。町の中心から少し離れたアートコロニーに行こうと、カーサービスを頼んだが、あまりにもひどい応対に、ここのところ体調が良くない夫がキレた。もともと旅行好きでない夫だし、コロニーは見なくても後悔しないだろう、と予定を数時間早めてバスでマンハッタンに帰る(所要時間2時間半)。私の誕生日旅行だったが、楽しいだけの誕生日だけでなく、パートナーに対して大人の対応ができるのも、一つ年を取るということの意義かもしれない。この貸しは、私がキレた時のために覚えておくように、と笑いながら夫に念を押すのも忘れなかったが。

写真は町の広場にいるホームレスのおじさん。チベット仏教寺院と、神の存在を感じた古いカトリック教会。町の中を流れる川と川沿いの店。

ウッドストックにこりた私たち夫婦は、マンハッタンのありがたさを改めて感じ、めったにない機会に泊りがけを奮発する代わりに、猫もいることだし、こまめにレンタカーして日帰りで出かけよう、と決めた。旅行好きの私と、演奏旅行以外はあまりしたくない夫との妥協点を見つけただけでも、めっけもんの旅だった。

ウッドストックへの旅の翌週は、NY再発見の週。夫は自然史博物館を何度目かで訪れ、恐竜やイカとくじらに再び出会い、私はリンカーンセンター広場でのMETオペラ開幕中継を見に行く。演目は「ランメルモールのルチア」。大スクリーンに映し出される主演のナタリー・デセイはHDで大写しだと、発狂前からすでに顔が怖い。発狂して、ああやっぱりと納得する部分と、驚きが減るのと両方感じた。演出はオフ・ブロードウェイ出身のメアリー・ジマーマンだが、割とストレートで、音楽の力がとにかく圧倒的。写真はタイムズスクエアでの中継。

クィーンズ美術館(Queens Museum of Art : http://www.queensmuseum.org)のNY市の巨大パノラマにびっくり。マンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、ブロンクススタテンアイランド全五区のパノラマは1200分の1のスケールで、約1万平方フィート(大き目のアパート10軒分くらい)の広さがあり、1992年以前に建てられた全ての建物が含まれている。通りを一本ずつ見ていって、自分のアパートを探したり、エンパイアステートなど有名なビルも一目瞭然。1964年に開催された世界博展示の目玉だったが、マンハッタンの美術館で常設するのは無理な大きさと、細部の細かさの両方に感動。美術館前の地球儀も世界博の際に作られた。フラッシングメドウズ・コロナ・パークの中にあり、隣にはUSオープンの会場がある。パノラマの写真はミッドタウン、私の家の近所(イーストビレッジ&ロウアーイーストサイド)、3枚目はマンハッタンが左上に小さく見える。

NYを訪れる友人たちにはいつも、スタテンアイランド行きのフェリーから見るだけで十分、と言い続けてきたが、実は自分も行ったことがなかった自由の女神。一回は近くで見るのも悪くない。横から見た曲線が美しい。が、9.11後は、女神の中に入ることは出来なくなったし(台座に入ることは出来る)時間の限られた旅行者にはやっぱり、上記のフェリーで事足りる。一番おいしい部分は、ロウアーマンハッタンの摩天楼と自由の女神の両方を、フェリーから見ることだから。

エリス島移民博物館の巨大な入国審査室を見ていたら、マルクス兄弟の「モンキービジネス」を思い出した。モーリス・シャバリエのパスポートを盗み、兄弟それぞれがシャバリエの似てない歌真似(ハーポは蓄音機)をしてアメリカに密入国をはかる。実際のマルクス兄弟はNY生まれだけど。