ビデオ日記

Hush… Hush, Sweet Charlotte ふるえて眠れ
ロバート・アルドリッチ二作。同監督の「What Ever Happened to Baby Jane?」とこの作品のベティ・デイビスは、どちらも往年の美女転じてホラーとなる役を演じて最高だ。

The Dirty Dozen 特攻大作戦
全くリアルでないとはいえ、とんでもなくバイオレントな戦争映画。アメリカ軍が死刑囚ら12人を集め、ナチス高官を大量虐殺(この方法がすごい)するための刺客として訓練する。囚人全員ではないが、ジョン・カサベテス、ドナルド・サザーランドチャールズ・ブロンソンら主な囚人は、戦争映画に典型的な人物像ではあるが生き生きしており、演出がうまくテンポも良く、ある程度予測できる展開でも飽きずに見られる。

Ballad of a Soldier 誓いの休暇
反戦ソビエト映画の名作とされている1959年の作品。前線で手柄を立てた19歳の兵士が、故郷へつかの間戻る旅の出来事を描き、英雄的行為よりもヒューマニズムを賞賛した映画に見受けられる。が、少年の同国人に対する人の良すぎる行為が積み重なるほど、敵に対しては「恐怖から」ナチスの戦車を2台倒した「英雄的」行為が浮かび上がってきて、戦争を題材にしたホラー映画としか思えなかった。

Brief Encounter 逢びき
大人の恋愛映画の決定版。つかの間の不倫、駅、ラフマニノフのピアノ協奏曲第二番といった、はまりすぎて陳腐になる危険のある題材を組み合わせて、自分を客観的に見られるウィットある大人にため息と涙を出させる。ノエル・カワードの脚本、デビッド・リーンの演出、主人公二人を始め、脇役の演技も素晴らしい。

Day for Night アメリカの夜
映画が人生より大切なことも、人生が映画より大切なことも両方知っている、映画おたくのトリュフォーが撮った、映画制作についての映画の最高作。

The Verdict 評決
シドニー・ルメットの法廷物で悪くない出来だが、同監督の「十二人の怒れる男」には到底及ばない。社会的メッセージ(庶民が損をして、金持ちが栄える)が前面に出すぎて図式化され、少し鼻につく。冒頭に出てくるポール・ニューマン行きつけのバーはボストンにある設定だが、NY、イーストビレッジのトンプキンスクエア公園横のバーHorseshoeで撮影されている。お洒落でなく、適当に古く落ち着けて、近所の人たちに愛されている気楽な場所だ。ビール片手に見始めたら、見覚えのあるカウンターと景色にびっくり。1982年当時のイーストビレッジ、特にアルファベットシティと呼ばれる公園の付近は治安も悪く、落ち目でアル中の弁護士が住む場所としてふさわしい。「セルピコ」や「ゴッドファーザー2」もここで撮影された。写真はバーの内部。映画では、窓脇に置かれたピンポールをプレイしながらニューマンがビールを飲んでいて、色つきガラスの窓から公園が見える。

Inland Empire インランド・エンパイア
約3時間もある、デビッド・リンチ5年ぶりの長編。無意識や夢をそのまま提示しているような作品で、半分ほど寝てしまった。男顔で女性的、ワイルドでもろいローラ・ダーンの顔は良かったが。ヒッチコック作品のジミー・スチュワートのように意識と無意識、アメリカの明るさと暗黒の境目にいる案内人だ。彼女が出演した過去のリンチ作品と違い、カイル・マクラクランニコラス・ケイジといったパートナーを必要としなくなった、役者としての成長がうれしい。

浮草物語
小津映画にマッチョという形容詞は普通使われないが、これは非常にマッチョだと思う。旅芸人一座の座長が、息子の幸せを考えて父親の名乗りをあげない、という寅さん的な1934年のサイレント映画。肉体的にではなく、夫婦喧嘩でお互いが平行線をたどり、男と女の根本的な違いに唖然とさせられるような男性的さ、それも非常に日本的な。

息子に真実が分かってしまってからも、また旅に出る父親の気持ちは女には理解しがたい。話し合いの意味はなくて、結局自分が納得することしかやらない。その上、一座を一緒に立て直すのは今の愛人で、とんでもなく非フェミニスト的だ。アメリカだったら、名乗りすら上げないのは非人間的で、特に当時だったら、育ちは悪くても出世するアメリカンドリームな作品になるのでは。この作品にうなずきながらも憮然とする私はまだ若くて、男に食ってかかる今の愛人の方に近く、座長との間に子供をもうけながらも、居酒屋をしつつ一人で子を育て上げる飯田蝶子には及ばない。何か言っても無駄だ、と分かりきった上での強さだと思う。

浮草
1959年制作、小津自身によるカラー&トーキーでの忠実なリメイクだが印象は違う。30代の小津と50代、死の数年前の小津。男女の違いが生々しいオリジナルに比べ、リメイクは音と色があるだけに物語がより幅が広く、表現もより洗練され、座長の決断もより納得がいくよう描かれていてスムース。男女の違いは座長と元恋人、今の愛人だけでなく、座長の息子とその恋人にまで拡張され、座員それぞれにより物語と深みがある。オリジナルでは夏らしいという以外に設定されていなかった季節はお盆(赤い鶏頭の花と提灯)になっており、突然息子と母親の元に来て去っていく男は死者同様だ、と示唆されている。生々しい描き方のオリジナルと、洗練され微妙だがよりシニカルなリメイク、両方面白い。オリジナルの方が台詞は機知に富んでおり、リメイクの座長はより暴力的で言葉も汚い一方、赤が効果的な色調が美しい。

沈黙
誰に対して作っているのか不明。主人公と同様のカトリック教徒向けだったら、英語よりイタリア語などラテン系言語の方が良さそうだし、主役のポルトガル人宣教師は実際にはポルトガル語をしゃべっているはずだが役者探し、スタッフとのコミュニケーションやマーケティング上、英語が一番現実的だったのだろう。が、言語は文化と切り離せないので、ポルトガル人ではなくただの外人になってしまっている。映像が具体性を捨てたら物語は明確にならない。製作者側もそれを分かっている上でのやけなのか、丹波哲郎が日本に帰化したポルトガル人宣教者を特殊メイクで演じている(これはこれで興味深いが)。

原作の小説を読んだ時は、宣教師が信仰を捨てるまでの葛藤に感情移入できたが、映画だと拷問の様子が見えてしまうので、信仰という抽象的なものにしがみつく理由が納得できない。スコセッシがリメイクするらしいが、カトリックの背景がある彼が作るとどうなるのか興味深い。

野獣の青春
宍戸錠よりも、007の悪役ブロフェルドのように猫を抱いてるヤクザのボス役小林昭二(ブロフェルドが最初に登場する「ロシアから愛をこめて」の日本公開よりも前に制作されている)と、そのオカマの弟でキレるとナイフを振り回す川路民夫がもっと見たい。