No Country for Old Men


久々の傑作という評判が高いコーエン兄弟の新作だが、正直言ってがっかりした。感謝祭の週末、タイムズスクエアシネコンで見たが、終わってから「金返せ!」と叫んでいるオヤジもいた。そこまでひどくはなかったが、期待が大きすぎた。ギャグも殆どなく「ブラッド・シンプル」などコーエン兄弟初期の作品を思わせる、ハードボイルド&B級パルプな犯罪スリラーで、同名のベストセラー小説が原作。

1980年、メキシコ国境に近いテキサスの小さな町。犯罪とは縁のない男ルウェリン(ジョシュ・ブローリン)は麻薬取引が失敗して殺人に終わった現場に偶然通りかかり、現金2万ドル以上を見つける。彼はその金を警察に届けず独り占めしようとし、異常性格の殺し屋アントン(ハビエル・バルデム)との間の追跡劇が始まる。

「(アメリカは)老人のための国ではない」という題名の意味は、狩る者狩られる者両方が、医者にも行かず、銃撃による傷を自分で治して追いかけっこを続け、一方彼らを追うシェリフ(トミー・リー・ジョーンズ)は限界を感じてリタイアする、という面に一番強く出ているようだ。DIYの国アメリカを描いた、西部劇映画の邪悪なパロディのような、ブラックなタイトルだ。

追う側の武器は牛殺し用の空気銃のみで、空気ポンプを持ち歩く。最初から最後まで血まみれで、空気銃の大きな音に座席から飛び上がるが、サスペンスというよりはショックであり、暴力の本質はクローネンバーグの最近の二作の方が深く描かれている。が、沈黙も含め、コーエン兄弟の得意な、より微妙な効果音は最高だ。通常の意味でのサウンドトラックはないが、現金入りブリーフケースに付けられたセンサーの音や、風の音などの環境音が画面の感情に深みを与える。

ハビエル・バルデム演じる変な髪形の殺し屋は怪しさ満点、追われる側のジョシュ・ブローリン(「プラネット・テラー」の医者役)もなかなか好演。撮影が行われたニューメキシコの、荒涼とした砂漠の景色も印象深い。