JCVD その男 ヴァン・ダム


ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の「JCVD」を一言で説明するのは難しい。筋立ては「狼たちの午後」で、主題はミヒャエル・ハネケ、手法は「パルプ・フィクション」、スターが自分自身を演じて映画制作の内幕を描くのは「イルマ・ヴェップ」とも共通しているが、このヴァン・ダムは落ち目の自分自身を痛いくらいにいじっているのが、作品を非常にユニークにしている。
思いっきり映画おたくな分析をしてしまったが、何しろ驚いたのだ。ヴァン・ダムの映画で笑って泣けるなんて、思いもよらなかったから。今年は新作映画をあまり見ていないので、ものすごく個人的な意見だが、「アイアンマン」と並ぶナンバー1作品。

実生活同様に落ち目で、娘の養育権を法廷で妻と争うヴァン・ダムは、弁護士への費用を払うために立ち寄った郵便局で、強盗人質事件に巻き込まれる。強盗の首領は「狼たちの午後」のパチーノの相棒と同じ髪型である。ヴァン・ダムは人質にされたのだが、事情を把握していない警察は、彼の映画のイメージから、ヴァン・ダムが犯人だと勘違いしてしまう。ヴァン・ダム、強盗犯、彼を路上で見つけるビデオ屋店員など複数の視点から、同じ出来事が「パルプ・フィクション」式のフラッシュバックで繰り返し描かれる。
それらと同時に、現実とフィクション(ヴァン・ダムの映画スターとしての役柄のイメージと彼の私生活、映画の中の強盗人質事件)の境界が曖昧になり、過去の出演作や仕事をした監督などに関するジョークで笑わせながら、観客に知的な挑戦を迫る。ヴァン・ダムが過去と現在の状況を語る独白は涙を誘い、この作品をきっかけに、演技もできるアクション・スターとして彼が復活することを望む。ミッキー・ロークが落ち目のレスラー役で主演するダーレン・アロノフスキー監督の「レスラー(17日公開)」よりも良い出来との評もある。これらの異なる要素が脚本・編集共にうまくまとめられ、知的なエンターテイメントとなっているだけでなく、アクションも過去のヴァン・ダム映画に比べ少ないが効果的に使われて、犯罪アクションスリラーとしても良く出来ている。