Quantum of Solace


007最新作。ダニエル・クレイグが初めてボンドを演じた前作「カジノ・ロワイヤル」より全然つまらない。無駄をそぎ落とした新ボンドの新鮮さは薄れ、代りに「ボーン」シリーズの下手な真似が目立つ。
「ボーン」同様に速いカットとアクションの連続だが、アクションも物語もスリルがない。腰を据えてサスペンスを盛り上げていく方が「007」向きだと思う。アパート内での1対1のアクションは「ボーン」2作目そのまま。ボンドが笑わず感情を殆ど示さないのもボーンと共通している(コネリー=ボンドの大人のユーモアが懐かしい)。かといって、前作より冷血なアクション・ヒーローに徹しきれていもいず、中途半端な印象もある。

話の流れも演出も不器用で、前半のアクション場面は、祭りと並行してスリルを盛り上げる意図は分かるが逆効果でもたもたしている。物語の流れも、作品中で明確に意味が説明されない不可解な題名同様に不明瞭だ。オープニング・クレジットと主題歌(ジャック・ホワイト&アリシア・キーズ)もインパクトなし。

ちなみに、最後にボンドが乗る車はなぜかフォードのSUV。今回の悪玉である、エコロジーを騙るヨーロッパのビジネスマンギャングの車で、エセ環境男が地球に優しくないSUVに乗ってるのはうなずけるが、ボンドが運転する時にロゴが大写しになるので混乱する。エコを題材にしながらも、結局は地球に優しくないフォードのアメリカが善玉という構図か?などと想像をめぐらすことができるのも、ビッグ3が生き残れればの話だが。。。そもそも007シリーズは、アメリカが世界一の大国でイギリスはその同盟国であり、時代に応じて両国に共通の敵が変わっていく、現実社会に対応した世界に立脚している。アメリカ主導の政治や外交に世界中がうんざりしているだけでなく、アメリカの優位は経済危機で現在大きく揺れている。これからも以前ほどアメリカが強くなることはないと思うが、果たしてその時ボンド・シリーズは生き残れるのだろうか。イギリス人であることの意味が薄れてきている現在のボンドなら、問題ないかもしれないが。アメリカの優位が薄れてきた世界の中での、より記号的な(過去を失くしたボーンのように)クレイグ=ボンド起用と見たら深読みしすぎだろうか。