Cadillac Records


ドキュメンタリーとしては悪くない出来だが、映画としては今ひとつ。ブルースだけでなく、ロックの歴史に大きな影響を与えた伝説的なシカゴのレコード・レーベル、チェス・レコードの誕生と黄金時代が描かれる。ジェフリー・ライトマディ・ウォーターズ)、モス・デフチャック・ベリー)、ビヨンセ(エタ・ジェイムズ)ら豪華キャストがチェスのスターを演じ、実際に演奏している。演技も演奏も優れている(特にビヨンセの歌)が、個々のドラマと演奏場面のまとめ方が散漫で有機的でなく、豪華TVドキュメンタリーの印象を与える。
チェスの経営者レナード・チェスを演じるエイドリアン・ブラディは、エルビス以前の人種隔離の時代に黒人音楽をプロデュースする、ユダヤ系移民のやり手経営者を巧みに演じる。が、ビヨンセとのロマンスになると、「キング・コング」リメイクでのナオミ・ワッツとの絡み同様に全然いけてない。猫博士マイケル・W・フォックスの「ネコのこころがわかる本」の中の写真を思い出した。
しかし、やはりビヨンセが出演した、シュープリームスモータウン・レコードをモデルにした「ドリームガールズ」と違い、受け狙いのために音楽が漂白されることもなく(元々ブロードウェイのミュージカルだった「ドリームガールズ」では、ブラック過ぎないダイアナ・ロスを起用したシュープリームズのサウンドが、ベタなストリングスでさらに漂白されている)チェスのエッセンスを伝えているので、ロックで育った世代に、そのルーツであるブルースの本物を聞く気にさせる優れた入門編ではある。