Man on Wire


Seeing is believing!!(百聞は一見に如かず)
1974年8月、ニューヨーク世界貿易センタービルのツインタワーを綱渡りで8往復したフランス人フィリップ・プティを描いた、ジェームス・マーシュ監督のドキュメンタリー。当時の映像及び、フィリップと彼の協力者たちによる回想や再現シーンが巧みに組み合わされ、スリルと詩、感動を生み出している。
ジャグラーでもあるフィリップは、黒ずくめの伝統的なストリートパフォーマー姿で綱渡りをする。詩的でシュールで緊張感ある映像のすごさは見て感じるしかない。とんでもないアイデアを実行した変人、またはプロフェッショナルな芸人として距離を置くのではなく、見ていて腹筋に力が入ってくる。CGなしなんて信じられない。人間はここまで出来るんだ!!
自分が綱渡りをするためにツインタワーは存在するという壮大な思い込みから逃れられず、(他人に迷惑をかけない)違法行為である故にさらにエキサイティングだったという、反抗者フィリップの緊張感あるスタンスが美しい。人間の可能性の限界に対する感動は、プロパガンダ的でなく、反抗者から生み出されるために、いっそう大きい。
現地に何度も赴き、警備の目を潜り抜けて調査し、模型を作り、タワーの間にロープを渡す方法を考案し、練習を重ね、不可能に見えるツインタワーの綱渡りを実現させていく過程は、ジュールス・ダッシンの「リフィフィ」や「トプカピ」を思わせる、スリリングでスマート、ユーモラスな第一級のハイスト(強盗)映画を見るようだ。
当時を回想するフィリップの語りも素晴らしい。34年前の出来事を興奮冷めやらずにしゃべる彼は天性の演技者であり、彼の熱気が乗り移ってくる。協力者や当時のガールフレンドにとっても、いまだに大きな、人生を変える出来事であったことが、彼らの回想からも伝わってくる。様々な個性の彼らとフィリップの間の人間ドラマも興味深い。
常に死の危険と共にある、約400mの高さでの綱渡り。フィリップはそこに緊張の中の安息と楽しみを見出す。逆立ちし、寝転び、後に介入してきた警察とのユーモラスな追っかけっこを含めて、8往復計45分間を空中で過ごす。ツインタワー崩壊については言及されないが、建設作業の記録映像が映され(テロ後の復旧作業かと一瞬思わせる)、過去を語るフィリップが未だ存在することが、誕生と死のサイクルを感じさせ、作品の詩的な哀しみを深めている。