Synecdoche, New York


マルコヴィッチの穴」「アダプテーション」の脚本家チャーリー・カウフマンの初監督作である悲喜劇。
体の不調を常に訴え(中年に差し掛かった者には、より実感できる医者通いは痛いながらも笑ってしまう)、愛する者たちに去られ、死の影におびえながらも長生きし、自身の芸術に人生が飲み込まれてしまう舞台演出家ケイデンをフィリップ・シーモア・ホフマンが演じる。
妻と娘は去ったが、演劇の賞を受賞した彼は、その莫大な賞金を新しい舞台につぎ込む。彼が暮らすNYの街と自身の体験の再現場面を巨大な倉庫に次々と取り込み、舞台の規模も役者も増え続けるが(彼とその周りの人たちを別の役者が演じる)、人生同様に終わりは見えない。
カウフマンらしい奇抜な頭脳系アイデアだが、一番印象に残るのはアイデア自体ではなく、愛に餓える孤独と死の恐怖に向かい合いながらも、そこから逃れようとするかのごとく、巨大な舞台づくりに取り組む、観客の目の前で40歳から80歳くらいまで老いていくケイデンの姿である。奇抜なアイデアでありながら、「芸術家の狂気」ではなく、観客誰でもが感じうる、思い通りにならない人生とその機微を全編を通して描いているのは、カウフマンの脚本・演出とホフマンの演技の素晴らしさによる。