The Social Network ザ・ソーシャル・ネットワーク


フェイスブックハーバード大在籍中に立ち上げ、史上最年少の億万長者になったマーク・ザッカーバーグを主人公に、同サイトの設立経過を描く話題の作品で、監督はデビッド・フィンチャー。殆ど友達のいない天才的なコンピュータおたくが、世界最大のSNSを作ったという皮肉を体現した、現代版「市民ケーン」ともいえる伝記映画だ(最後の場面は,完全に「市民ケーン」のラストを意識したと思える)。ザッカーバーグに対する訴訟と、それに答える形で、設立時のエピソードがフラッシュバックとして繰り返されるスリラー仕立てだが、あまりにも急速に成長した巨大ビジネスを巡り、誰が誰を陥れようとしたかはおそらく意図的に曖昧にされている。


最初の場面では、マークが学生街のバーでガールフレンドと話している。彼のおたくな機関銃トークにはガールフレンドだけでなく観客もひいてしまい、作品全体がこの調子で続くのかと不安にさせられる始まりだ。その不安は、半分当たって半分はずれる。作品は、マークのソーシャルネットワーク、つまり人付き合いの技能のなさを全編にわたって描いているが、知的な緊張感と新しいビジネスアイデアの発見の喜びが持続している。パーティーやセックス、ドラッグの場面がアクセント的に挿入されるものの、基本的には、イヤなやつが頭脳プレイのみで新規ビジネスで成功するという色気のない話を、興奮しながら見続けることができる。トレント・レズナーのドライブ感ある音楽は全体をまとめる助けになっており、ナプスター創設者を演じるジャスティン・ティンバーレイクの、カリスマとスピード感ある意外な名優ぶりにも驚かされた。


デビッド・フィンチャーらしさは、ハーバード大の金持ち双子兄弟がイギリスでレガッタの試合に出る場面以外は抑え目だ。スローモーションで、ボートとそのこぎ手に激しくフォーカスがあっていて、周りはぼやけている、明らかに凝った映像に釘付けになり、使い古された音楽の使用(グリーグ作「ペール・ギュント」より「山の魔王の宮殿にて」)も気にならない。が,ニューヨークタイムズの評を読むと、双子は違う髪型や特殊効果、ボディダブルの使用で同じ役者が演じていることがわかった!さすがフィンチャー


前述のアクセント的なパーティーやセックス、ドラッグの場面は、フェイスブックがパーティーの小道具として急速に人気が出た説明にもなっている。が、様々な批評が述べているような、現代ネット社会の鋭く深みのある分析となっているかどうかは疑問だ。また、マークはつかみどころがなく、訴訟をめぐる謎も曖昧なままなので、彼を心から分かった!という気にもならない。これも市民ケーン的。最後の場面で、好意的な人物解釈が行われるが、いかにも付けたし的で、なぜフェイスブックをそんなに大きくしたかったのかという、表面的でない彼自身の動機もあいまいだ。でも、ラストシーンと登場人物の消息のテキストが映し出されると、なぜか余韻がどーんと残る。


ニュージャージーのラドガーズ大学の学生が、寮のルームメイトにゲイセックスのライブ映像をネットで流されて、ジョージ・ワシントン橋から身を投げた事件が先月29日に報道されたばかりでもあり、映画が終わった後に考えさせられる。写真を見る限りでは、自殺したタイラー・クレメンティ(18)は、色白痩身の優しそうな気の弱そうなおたくっぽい白人青年で、内緒でウェブカムを仕掛けたのは明るそうなインド系らしきダルン・ラビ、その共犯が友人の中国か韓国系の女の子。1回だけでなく2回も盗撮を試みたところからも、ゲイいじめがネット使用でエスカレートしたと言い切れない、なんともいえない後味の悪い事件である。ラビは、ツイッターでライブビデオチャットに参加を呼びかけ、クレメンティは自殺の当日、その予告をフェイスブックに載せていた。生のネット配信によるプライバシー侵害の罪は、最大でも懲役5年である。
http://www.nytimes.com/2010/09/30/nyregion/30suicide.html