2011年ベスト

1.ハリー・ポッターと死の秘宝Part2

ハリポタ映画の中で一番出来がよく、動く絵本でなく映画として大いに楽しめる、シリーズ最後にふさわしい優れた作品。アラン・リックマンレイフ・ファインズマギー・スミスなどの名優たちに、やっと見せ場をきちんと与えたのも質が高くなった理由で。特に、スネイプ(リックマン)が本当はどちらの側についているのかという秘密が明かされる場面では涙があふれた。
http://d.hatena.ne.jp/djmomo/20110722#1311294424


1. Margin Callマージン・コール

2008年の金融崩壊のきっかけとなったリーマン・ブラザース破たんに大まかに基づき、金融崩壊前夜の大手投資銀行社員たちを描くサスペンス。価値のなくなった資産をそれと承知で売りつけた彼らの行為は正当化されるべきではないし、沈んでいく船から自分だけは逃げ出そうとする選択は理解できるが共感はしない。共感はしないが、結果が分かっているにもかかわらず、それぞれの登場人物の葛藤から生まれるサスペンスにはらはらさせられる。これが監督一作目とは思えないほど達者な映画で、ケヴィン・スペイシーら出演者の優れた演技も見もの。

若手アナリストのザカリー・クイントは、突然解雇された上司スタンリー・トゥッチが残した情報を手掛かりに金融崩壊が進行していることを発見する。一刻を争う事態に、経営陣が深夜に集まり経営会議が開かれる。大量解雇を行ったばかりの営業部長のケヴィン・スペイシーは、自社が不良債権を手放すことで金融危機が加速化することに葛藤するが、結局は自らの貪欲さに屈する。下から上に至るまで様々に葛藤し、多くの選択が行われるが、自分だけ助かろうとするのは一緒だ。CEOのジェレミー・アイアンズはチャーミングだが葛藤を超越したモンスターで、金融崩壊を導きながら巨額の報酬をもらっていたリーマンのリチャード・フルドCEOを思わせる。

もがいても結局みんな沈んだと当時は思っていたわけだが、2012年の今では、ウォール街の経済的強者は政府に救済されたり合併しながら、不景気ながらも生き延びている。格差社会は依然として存在し、その他大勢の弱者はいまだに不況のあおりをまともに受けている。去年のウォール街デモの対象となった「1%」の人々に対する99%の怒りはそこにある。この作品の登場人物に共感するにはタイミングの悪い公開時期だったにもかかわらず、少なくとも彼らも人間だったということに気付かせる、ただものでない作品。「ウォール街2」より格段にいいのは間違いないし、個人的には「ウォール街」よりも優れていると思う。金融崩壊についての秀作ドキュメンタリー「Inside Job」と併せて見ても良いかもしれない。


3. 神々と男たちOF GODS AND MEN

1996年、内戦中のアルジェリアで起きた、イスラム原理主義者たちによる(とされる。真相は今でも不明)フランス人修道士7人の誘拐、殺害事件が題材。フランスからかつての植民地アルジェリアに派遣された修道士たちは、武装イスラム集団のテロの脅威にさらされる。修道院は貧しい国における無料の病院としても機能しており、地域の一部となっている。一方、アルジェリア政府側は、貧困と内戦のそもそもの元凶はフランスによる植民地化であると見なして、修道士たちに帰国を要請する。アルジェリアに残るべきか離れるべきか、修道士たちは聖職者として人間として葛藤する。全員がそれぞれの理由で一つの結論に至る様子は「十二人の怒れる男」を思わせる。心を一つにした彼らは文字通り「最後の晩餐」を共にするが、その時にラジオからチャイコフスキーの「白鳥の湖」が流れる。修道士たちがアカペラで歌うグレゴリオ聖歌以外は音楽が使用されていないため、唐突過ぎて気になった。神の人間性または人間の神性を表現するための選曲だと思うが、それにしても俗にすぎて、あれ?となってしまった。その点以外はぐいぐい引き込まれ、考えさせられた。


4. The Descendantsファミリー・ツリー
今年の崩壊家族インディー映画は、ゴールデングローブ作品賞を受賞したこれ。外からは楽園のように見えるハワイも、実際住んでみると他の場所と同じように色々と人間関係で問題がでてくるが、新たな問題が起きたり場面転換のたびに心和むハワイの景色が出てきて癒されるという話。ジョージ・クルーニー演じる中年弁護士はハワイに何十年も住んでいるのに最後にサーフィンしたのは15年前なのだが、だからこそ、彼が先祖から受けついた手つかずの美しい土地に対して下す決断は納得できる。それらの景色は確かに美しいが、はっとさせられるほど美しくはない。オアフを舞台にした「ロスト」の方がドラマチックな展開の分美しく見える。似たように聞こえるハワイの和み音楽がそれらの景色のバックに流れるのも癒し効果を強調してはいるが、抑えたトーンというのではなく淡々と平坦に感じられた。うまくまとまって流れていくが、引っかかってくる作品になる可能性が全部生かされていない印象。ハワイ観光をプロモートするイメージ映画としては最高の出来。



5.The Skin I Live In

アルモドバル作品としては中程度で、タイトルに反して肌身に迫る感じはしなかったが、美しい映像の心理スリラーとして楽しめる。


6.The Ides of March
ジョージ・クルーニー民主党大統領候補の参謀ナンバー2のライアン・ゴスリングが、選挙戦の駆け引きの中で政治的童貞を失うというクルーニー監督作。政治スリラーとしては良くまとまっているものの、現実感はあまりなく新鮮味もないが、ゴスリング、クルーニーに加えてフィリップ・シーモア・ホフマン(参謀ナンバー1)、ポール・ジアマッティ(共和党候補の選挙参謀)の演技合戦で見せる。


7. ザ・マペッツThe Muppets
セサミストリートのゲストとしてしかマペッツを知らない観客には物足りないかもしれない。マペッツ・スタジオの乗っ取りをたくらむ石油王からスタジオを買い戻すため、マペッツ再結成に人間たちが協力する。人間のミュージカルナンバーは悪くないが個性に欠け、カメオも多数登場するが、マペッツのそれぞれのキャラクターを描き分ける時間が不足している。1979年のマペッツの映画一作目は、人形たちだけで素晴らしかった。再結成番組を放映するテレビプロデューサーが、マペッツは過去のものもだと作品中で言うように、この作品の制作者たちもマペッツを全面的に信頼していないのではと気になった。それでも、マペッツファンには、カエルのカーミットが大画面で名曲「レインボー・コネクション」を歌うだけで幸せな気分になる。持ち主のアンディが成長したらおもちゃのウディはどうなるのかというアイデンティティの危機を大きなスケールで描いた「トイストーリー3」のような傑作ではなく、台本もやや甘い作りなのだが。


8. Cave of Forgotten Dreams
ヴェルナー・ヘルツォークが、世界最古の洞窟壁画であるフランスのショーヴェ洞窟を3Dで撮ったドキュメンタリー映画。太古の馬やマンモス、ライオンの動きを鮮やかにとらえた壁画の映像は、洞窟の凹凸を活かした3Dで、思わず手を伸ばして触りたくなるほど真に迫っている映画全体としての出来はあまり良くないが、この映像を見逃すのは損。
http://d.hatena.ne.jp/djmomo/20110715#1310684291


9. Drive
ライアン・ゴスリングが、寡黙なスタント・ドライバー兼ガレージ修理工を演じるアートハウス向けアクション。最初の30分はテンポが遅くやや退屈だが、後半にあっと爆発する絶妙なペース配分。


10. Paul
サイモン・ペグとニック・フロストのおたくデュオが、CGの宇宙人(声:セス・ローガン)を家に帰すコメディ。名作には程遠いが、シンプルで下品で心あたたまり、適度におかしい。