Sense and Sensibility

djmomo2005-11-03


エマ・トンプソンの脚本によるロマンティックコメディSense and Sensibility(「いつか晴れた日に」)は、非常に良くできている。ジェーン・オースティンの原作の本質をつかんだ上で、うまく現代化し、話や登場人物を整理して、2時間20分に無理なくまとめ、魅力的でありながら”Pricde and Prejudice”など後のオースティン作品よりも、展開に多少無理がある原作をしのぐ説得力だ。エマ・トンプソンのオースティンへの愛が伝わってくる、脚本の勝利。短くまとめた分、原作のウィットが多少犠牲になるのは仕方がない、としても。

トンプソンとアラン・リックマンを始め、役者もうまい。原作を読んだことがある人にとって、エリノア(トンプソン)とブランドン大佐(リックマン)が一番おいしい役なのは当然だが、エリノアが恋するエドワード(ヒュー・グラント)の配役が的確。原作では、分別あるエリノアが結婚相手として選ぶ相手としては、線が細くて、役不足な印象で、個人的には何で上記の二人がくっつかないのか不満だが、グラントのふにゃーっとした魅力に納得。上記の二人は、分別ある大人同士として、良い義兄弟にはなれても、恋愛は生まれない、というのも映像から伝わってくる。エリノアの多感な妹マリアンヌ(ケイト・ウィンスレット)も妥当な配役。

脇役陣も、数が整理された分、着実に脇を固めている。典型的に見えた登場人物の意外な面が発見されるという原作の部分は、殆ど省略されているが、その分しっかりした演技でカバーしている。私のお気に入りは、パーマー役のヒュー・ローリー。とんでもなくバカな妻を持ったため、実は善人だが、無口で皮肉な夫という自分を演出せざるをえない、という役柄で、しゃべったのは全部で3〜4文だけだが、乾いたユーモアでインパクト強し。女たらしウィロビー役のグレッグ・ワイズのうさんくささも、笑っちゃう。

「演技派」の枕詞と一緒に語られることの多いエマ・トンプソンは、決して好きな女優ではなかった。役者なら、演技派なのはあたりまえ、それ以上の彼女の魅力がわからなかったが、この作品は、頭が良く分別がある優しいエリノア役がとっても良い。オースティンの分身と見られるこの役と原作が、本当に好きなんだろうな。この脚本も、めちゃくちゃ頭いい編集の仕方。台詞も、登場人物の描かれ方も、現代の映画向けにしつつ、約200年前のイギリスの雰囲気をきちんと伝えた仕上がりだ。当時の分別は、今の常識に直すと、多少非人間的な抑圧に見られる点を考慮したと思われ、エリノアの性格は多感な妹よりになっているが、二人の違いはきちんと書き分けられている。

同様に、ブランドン大佐も、恋する中年男のおろおろ感(リックマン!!)が強調されて、その分、彼の恋の結末は原作より納得が良く出来となっている。このおろおろ感、「ハリー・ポッター」のスネイプ役の、ハリーを見守る感じに、バランスは違うけど似てる。スネイプ役のすさまじい色気はなかったが、じゅうぶん大人のセクシーさが出てた。脚色されたディテールの中で好きなのは、マリアンヌが足をくじいた時のお見舞いの花束。実があり礼儀正しいブランドン大佐は立派なのをあっさりと、貧乏な女たらしのウィロビーは、そこら辺で摘んだ花を芝居気たっぷりに渡す。

監督のアン・リーは、原作と脚本、役者の良さを生かして、そのまままっすぐに手堅く演出した、という印象を受けた。Crouching Tiger, Hidden Dragonで一躍有名になったが、年取って舌がボケてしまった中華料理人の父と三人の娘を描いたEat Drink Man Womanは、地味だけど良い作品。Hulkではこけて、ジェイク・ギレンハール主演のゲイのカウボーイ映画 Brokeback Mountainが、そろそろ公開されるが、これも興行的には失敗間違いなしだろう。

オースティン原作のPride and Prejudiceも、再映画化され、公開間近。しかし、この邦題、何とかならないのかね。「分別と多感」と通常訳され、このままではキャッチーではないのは分かるが。。。