A History of Violence

久々に面白くて、ずしんとくる、新作娯楽映画でした。
まだ単館上映なので、アップタウンまで行ったかいがありました。
ロード・オブ・ザ・リングス」のヴィゴ・モーテンセン主演でクローネンバーグ監督というだけで、キャーっと見にいってしまいましたが、よかった。

アメリカの小さな町でダイナーを経営し、妻と子供2人との幸せな家族生活を営むトム・ストール(モーテンセン)。が、ある日、ダイナーに強盗が入り、自己防衛のために彼らを銃殺したトムは、一夜にしてアメリカンヒーローに。
メディアの注目が集まり、ストール一家は、静かな町には不似合いなギャングたちにつきまとわれるようになり、普通で平凡な家族に影が。。。。

スリラー仕立てなので、これ以上は言えませんが、モーテンセンは、何ともはまり役でした。Mr.Everymanだけの役者にはできない役です。
ギャング役のエド・ハリスウィリアム・ハートも、相変わらず手堅く存在感のある演技でした。

題名のとおり、世代と時代に層をなして暴力が描かれ、現実と映画のアメリカにおける暴力への優れた歴史的考察となっています。
設定と雰囲気は「ケープ・フィアー」など50〜60年代初期のB級スリラー映画を思わせ、町自体は時が止まってしまったかのように穏やかですが、子供たちの服装を見ると現在が舞台。ダイナーでの事件の後、トムが「静かな日常を取り戻したいんだ」と言うのは、911後の、日常を取り戻したいと思いつつ、恐怖におびえるアメリカを思わせます。
トムだけでなく、いじめられっ子である彼の息子が、暴力に暴力で立ち向かってしまう様子も描かれます。つきまとうギャングへの一家の恐怖は、ユーモアを交えて、現実と虚構の境が曖昧に描かれます(NRAなど銃所持を支持する人々が.この映画を見てどう思うのか興味深いところです)。トムと妻とのセックスも、暴力的な要素を交え、支配関係が入り乱れます。

色々考えさせられましたが、終わり方も含めて、良くできた娯楽スリラー映画です。また見直してみたい。ヴィゴかっこよかったしね。でも、アメリカの暴力に対して優れた考察をするクローネンバーグが、近くて遠いカナダ人であるということ自体、アメリカ映画の、そしてアメリカの病を体現しているように思いました(この映画についてのみ9月25日記)。