The Squid and the Whale

djmomo2006-01-05


ライフ・アクアティック」をウェス・アンダーソンと共同執筆した、ノア・ボーンバッハの脚本・監督で、プロデュースもアンダーソン。

現在30歳後半から40代前半の世代が育った時代の感覚を表現し、細部にまでこだわったレトロ感、ハイパーでエキセントリックな子供、とアンダーソン印の作品。が、個人的には、舞台となるパークスロープに一年半ほど住んだ経験から来る共感を割り引いても、最近のアンダーソン作品より、こちらの方がずっと好き。

何はなくてもレトロなスタイルを見てるだけで楽しめるアンダーソンほどは、スタイルにこだわらない分、登場人物の感情が、より繊細微妙に書き込まれているからだろうか。子供の目から見た両親の離婚、という感傷的になりがちな主題を、距離を置いて描いているだけ、おかしくも鋭く心にしみる。

1986年、ブルックリンのパークスロープに暮らすバークマン家。夫バーナード(ジェフ・ダニエルズ)は落ち目の作家で学者、妻ジョーン(ローラ・リニー)は人気が出てきたばかりの新進作家。ライター同士のエゴの確執や、妻の浮気などを背景に、夫婦は離婚し、夫は家を出て、二人の息子は一日おきに、父または母の家で過ごすことになる。飼い猫も、子供と一緒に両親の家を行き来させられる。

夫は、妻に自分より若い男(アレックでなくウィリアム・ボールドウィン演じる、フィラのシャツを着た長髪のテニスコーチという、絶妙なキャスティング)と浮気されても、奴はPhilistine(イスラエルの敵ペリシテ人のこと。ここでは、本にも映画にも関心がない俗物、の意)だ、と幼い息子に向かって、難しい語彙で彼を定義するだけの、情けないインテリだ。

彼だけでなく、家族全員に共感を寄せてはいるが、離婚劇を通して、それぞれの個性と欠点が幾層にも、情け容赦なく描きだされている。

子供たちは両親の離婚に困惑し、矛盾する感情をもてあます。特に12歳のフランク(オーウェイン・クライン=ケビン・クラインフィービー・ケイツの息子)はかわいい顔してるくせに、サウスパークのガキ共並に、滅茶苦茶口が悪い。性の目覚めの時期とも重なり、両親が学校に呼び出されることになる、抱腹絶倒の奇妙な問題行動をとる。

テニスコーチにあこがれ、母親よりの態度をとるフランクと違い、16歳の兄ウォルト(ジェシー・アイゼンバーグ)は文学青年で、父に尊敬の念を抱くが、一緒に暮らすうちに、だんだん失望していく。が、最後には、彼が欠点だらけの両親を、自分を、受け入れていくのを示唆して終わる。学校の発表会で、ピンク・フロイドの”Hey You”を、自分が書いたと偽って歌い、両親に離婚してほしくない、というメッセージを送るが、両親はメッセージに気がつかず、ピンク・フロイドの曲だ、と気がついたのが、”Philistine”なテニスコーチ、というのも皮肉だ。

ローラ・リニーは、すごい美人でもなく、殆どすっぴんなのに魅力的で、これなら男にもてて当然、と納得がいく。ブロードウェイで上演された、アーサー・ミラーの「るつぼ」で、リアム・ニーソンと共演したときの彼女は、普通にきれいな女優さんに見えたが、素顔に近い普通の役ほど輝いて見える、不思議な人だ。

パークスロープで、車を止める場所が見つからない、という繰り返される微妙なギャグも、実際にその通りで、45分間場所探してたこともあるので、笑っちゃう。もちろん、場所探しの間に、妻が男と話しているのを目撃する、など、他のギャグ同様、登場人物の性格や状況が同時に描かれており、全く無駄な部分がない。

こまこまとネタ明かしをしてしまったので、これから見ようと思う人はしまった、と思うかもしれませんが、そんなことはありません。これを書きながらも、見てたときはただ笑ってただけの場面も、後から考えると二重三重にも、意味があることに気づき、どこまで書こうか迷ってしまう、おいしい映画です。脚本がうまい!そして役者も、それをあますところなく表現してます。