本物のブロードウェイ・スター


本物のブロードウェイ・スターを初めて見て感動した。
「ウエストサイドストーリー」の初演でアニタ役を演じたチタ・リヴェラの、自伝的ミュージカル「The Dancer’s Life」である。

私は、ここ6年ほど演劇関係の仕事をしているので、ブロードウェイの舞台は結構見ている。「プロデューサーズ」や「アベニューQ」などヒットした作品は面白かったけど、こんなに否応なく釘付けにされてしまう、真のカリスマを持った役者を見たのは初めてだ。

正直言って、自伝としては、トーンがポジティブすぎて、深みと説得力に欠けるが、そんなことは気にならないほど、ブロードウェイの女王様の存在感は素晴らしくて、涙がこぼれそうだった。チタが作り上げた「シカゴ」のヴェルマ(映画でキャサリン・ゼータ・ジョーンズが演じた役)や「ウエストサイド」など、彼女が体現する昔のブロードウェイの素晴らしさがうらやましい。でも、過去を振り返るのでなく、その圧倒的なスターパワーで、とても元気になれるショウでもある。

2002年の、ケネディセンターでの名誉賞受賞からさかのぼり、ワシントンDCでの子供時代、バレエの勉強、ブロードウェイ・デビュー、とダンスと歌を中心に、語りを入れて描いていく。アンサンブルの一人だった彼女をスターにしたのは「ウエストサイドストーリー」。レナード・バーンスタインとのオーディション風景の再現では、”A Boy Like That”が歌われる。親友マリアの恋人が、自分の恋人を殺してしまった後に、怒りをこめて歌われる曲だ。バーンスタインがチタに指導し、苦戦しながら役作りする風景が演じられ、ついにアニタが誕生する。映画版はリタ・モレノが演じており、舞台の映像は残されていないのに、一音目から本物だと分かり、背筋がぞくぞくする。本物が本物を歌うのを聞く喜び。

グウェン・ヴァードン、エレイン・ストリッチなど共演者とのエピソードも"Big Spender(Sweet Charity)” "Nowadays(Chicago)”など彼女のヒット曲を交えて演じられ、最後は“All That Jazz(Chicago)”で締めくくる。 アルトのハスキーな声も力強い。

ボブ・フォッシー、ジェローム・ロビンスなど一緒に仕事をした振付家のスタイルも、それぞれのエピソードを語りながら比較して演じられる。ブロードウェイの歴史そのものが、歴史を演じているのを見る喜び!!背中とお腹に少し肉がついているだけで、72歳にはとても見えないセクシーな脚と体のチタは、それぞれのスタイルのエッセンスを紹介し、難しい踊りは若いアンサンブルに踊らせている。足は昔よりは高く上がらず、体の切れも昔ほどは鋭くないのだろう。たくさん踊るとうまい具合に椅子が出てくる演出もある。72歳、しかも10数年前に交通事故で足を折り、今でも足にボルトが入っているのだから当たり前だ。それでも、身長160センチほどしかないチタから目が離せない。彼女ほど、自然に観客をひきつけるカリスマを持った出演者は他にいないからだ。彼女の手足を中心に世界が広がっている。女王様万歳!!

終演後、楽屋(狭いので、実際は舞台裏だったが)にお邪魔して、握手&ハグしてもらって、しあわせ!!週に8回公演?とたずねた連れ(チタの日本公演のプロデューサー)に、彼女は、調子がよければ8回やれるんだけどねー、そうでもないから7回、と答えていた。すごいなあ。私も音楽やってるから、人前で演奏してると、多少の体調の悪さも吹っ飛ぶのは良く分かる。でも、彼女の年になって、毎日2時間の、しかも素晴らしいショウをやるのは本当にすごいことだ。最高だった時の
ブロードウェイで育った役者は、舞台でもらうパワーも違うんだなあ、と感じ入りつつも、私もがんばろう!と連れと語り合ったのでした。

Gerald Schoenfeld劇場で12月11日オープン、グラシエラ・ダニエル演出、テレンス・マクナリー脚本。