トニー・ジャー:次の国際的マーシャルアーツ・スターはタイから!

djmomo2006-04-20


トニー・ジャー主演の最新作「トム・ヤム・クン!」を見た。映画としては難があるが、トニー・ジャーの魅力は良く伝わってきたので、前作の「マッハ!(Ong-Bak: The Thai Warrior)」も見てみた。彼のアクションだけでなく、作品としても良い出来で、久々に映画を見て泣いた。

ずばり、次の国際的マーシャルアーツ・スターはトニー・ジャーでしょう!ジャッキーは年だし、ジェット・リーはマーシャル・アーツから引退するし。彼の魅力は、ブルース・リー以来の、と言ったらほめすぎかもしれないが、「暗さ」にある。ジャッキーやジェット・リーからは決して腹の底から感じられない、復讐や憎しみ、怒りといった負の感情の爆発。ファイティング・スタイルも、カンフーより暴力的で容赦なくスピード感がある(引っ掛けてひねる痛そうなスタイルが多く見られたが、これはジャーの、それともムエタイ特有のスタイル?)。


「マッハ!」は、タイの村から、村人の心の支えである仏像の頭が盗まれ、トニー・ジャーがそれを取り戻そうと、都会でギャングと対決する、シンプルな物語。スタント、CG、ワイヤーなしのアクション全開だけでなく、タイ国内での田舎と都会およびタイと先進国の格差、嘘っぽくなく形成される田舎者と都会のねずみとの友情、ドラッグや売春問題などが、単純な物語と設定の中で生きている。トニー・ジャーが殆どしゃべらなくても、発展途上国の田舎者であるキャラクターの劣等感や引け目のようなものが、怒りと共に伝わってくるような表情のアクション。久々に登場人物に感情移入して泣いてしまった。アクション、ワイヤーなしなんて、いまだに信じられない!


トム・ヤム・クン」は、密輸されてしまった象をトニー・ジャーが追って、タイからシドニーに舞台を広げ、タイ人、オージーだけでなく、中国系マフィアも登場する。が、風呂敷を広げすぎて、まとまりがない。象二頭を追うのだが、一頭見つかったところで、まだもう一頭あるのか、と思ってしまう。英語の台詞も多く、香港やアメリカ向けを意識して作られているが、「国際的」の意味を勘違いしているのが残念。

タイ以外の観客は、タイ映画にタイの風景を期待しているだろうし、「マッハ!」でタイを撮り尽くしてしまったとは思えないのに。タイの田舎と都会の対比が楽しい前半は、音楽・ダンス・歌・アクション何でもありで、古きよき映画のあり方すら思わせたが。国際的な映画とは、英語をしゃべることでも、海外に行くことでもなく、自分の言葉で外国の人にも分かるように、自分のことを説明できることだと思う。麻薬と売春問題も、ここでは背景の一部にすぎないが、タイの中だけで描かれる「マッハ!」ではタイだけのでなく国際的な問題だ、と思わせる。

トニー・ジャーの生身アクションのすごさと暗さは得がたいので、これからの作品に恵まれることを期待!声が甲高く、演技もあまりできないのか、殆ど台詞なしだが、その辺をうまく分かってる監督だといい。

それにしても、トニー・ジャー織田裕二、二作ともに出演してるペットターイ・ウォンカムラオは南伸坊に似てる。「トム・ヤム・クン」ではジャッキー・チェンカメオ出演

両作品から感じたが、タイの仏教的平和なイメージ(象など)とトニー・ジャーのアクションの残酷さの対比が印象的だった。師匠の敵!というパターンが多いカンフー映画に比べ、村の人々や王を守るムエタイ戦士の家系、とか、より広いバックグラウンドがあって、それを守るために戦う方が、人は残酷になれるのかなあ。タイ映画はこの2本しか見たことがないので、断言はできないが。