カルメン故郷に帰る

djmomo2006-04-21


ずっと前に見たと思ったけど、こんな変な映画だったっけ?これが日本初のカラー映画とは粋だねぇ。いやー、面白い映画。1951年、木下恵介監督。

足踏みオルガンで演奏される「ふるさと」に合わせた、子供たちと先生の、校庭でのお遊戯から始まるが、「ウィッカーマン」やタイ映画やらを見た後だと、懐かしい日本というよりは不思議なカルトの踊りのように見える。

運動会の楽団はトランペット、トロンボーン、鼓笛隊風ドラム。ストリップ用のキューピッド楽団は、トランペット、ピッコロ、バイオリン、ドラム、と、どちらも渋い編成で、音楽は木下忠司と黛敏郎

小学校の校長先生役の笠智衆は、浅間山が心の友らしい。まだ若く、喧嘩の場面まで見られるのは貴重。「日本は文化」といった、意味を分かって言ってるのか不明な棒読み、天然ボケの台詞がぽんぽん飛び出す。村唯一の知識人という自覚があるためだが、高峰秀子演じる、東京でストリッパーをしていて、故郷に錦を飾りに帰ってくるカルメンの「芸術」の内容については知らないので、余計におかしい。

カルメン浅間山ふもとの牧場の娘。母の実家が長野なので、毎年夏、その辺に行っていたから、より懐かしい。

歯の浮くようなせりふは、カルメンからも、芸術という口実で金儲けをしようとする地元商人、商人に取り入る男などからも、ほいほい出てくる。が、言う人によって、その自覚や偽善の度合いが違っていて面白く、「裸の王様」のような風刺劇でもある。行為を行う人と受け手によって、何が芸術かという認識が違うのは、ストリップに限らず、私がやっているような前衛芸術にも当てはまる。作り手のメッセージを押し付けられることなしに、楽しみながら、色々なことを考えさせられる映画だ。

ここでは、芸術という名に隠れて、裸を見たい男たちの欲望と偽善、それを分かりつつも、自分のやっていることは芸術だとも思う、少し頭の足りないカルメンの対比が、描かれている。いつまでも純情でいたい、と言いながら、昔好きだった男を口説いてしまうカルメンが、可愛くてたまらない。

ピンナップガールのような都会的美人のカルメンとその相棒が、のどかな町でアメリカかぶれに振舞う姿は、村人にとって憧れであると同時に、馬鹿にする対象でもある。彼女たちが裸で踊る前から。でも、彼女たちの今見ても十分お馬鹿でキッチュな振る舞いは可愛く、開放感にあふれ、わくわくさせてくれる。

裸で金を稼いで、本物の(?)芸術を支えているのも彼女たちで、そんな彼女たちのことを無視しようとするのは、偽善的で鼻持ちならないよ、ということも語っている。高原で楽しそうに裸踊りをするカルメンたちを遠目で見ながら、噂話に花を咲かせる男たちと、彼女たちに近づいてくる正直な馬の群れの対比が、強烈な風刺になっていておかしかった。