上意討ち−拝領妻始末

djmomo2006-04-27


人間性を無視した武家社会の仕組みに、ついに切れた侍親子が立ち上がる、という時代劇にはありがちの単純なパターンだが、脚本も演技もうまく、徐々に盛り上げていくテンポも適切で、絵も美しく、2時間を飽きさせない。1967年作。

会津松平藩の侍、笹原伊三郎(三船敏郎)は、暇を出された主君の側室お市司葉子)を、長男の嫁にせよ、と命ぜられる。この縁組は予想外にうまくいき、長男と市はむつまじく暮らしているが、お市の生んだ男の子が藩の跡継ぎになることが決まると、お市を返すように、との命令が。。。

同じ小林正樹監督の「切腹」の方が、仲代達也の重厚だが洒脱さのない演技を逆手にとった乾いたユーモアがあり、仲代の長い演説以外は、より省略がきいていて私好み。が、この作品の三船敏郎の、特に最後の場面の鬼気迫る演技は圧巻。情念の塊みたいな司葉子の美しさも、役にふさわしい。白黒の侍屋敷は、日本の時代劇の美を備えながらも、ドイツ表現主義の映像のようでもあり、ユニバーサルな美しさだ。武満徹の音楽は、不吉なモティーフがわかりやすい。

切腹」は、サラリーマン武士と侍としての名誉を通そうとする浪人の対等な対決である。この作品は、妻の尻にしかれ、耐え忍びながらサラリーマン奉公をしてきた剣の達人、伊三郎が、藩にたてつくようになる変化に、より重点を置いている。が、伊三郎べったりでなく、距離をおいて描いており、主人公に共感しつつも、それぞれの登場人物の生き方も尊重し、大きな流れの中での一人一人の人間の小ささをも同時に表現している。脚本は、最初の方の細かいディテールが伏線となり、後から後から生きてくる、うまいつくりで、さすが黒澤作品で有名な橋本忍

アメリカで最も影響力のある映画評論家の一人、ロジャー・イーバートの評では、複雑なプロット、とされている。日本人にとっては、時代劇にありがちな筋だが、外人には理解しづらいのかも、と興味深かった。いずれにせよ、日本ならではの題材と設定をフルに生かしながらも、国境を越えて共感を呼ぶ名作である。