「女体桟橋」「ポルノ時代劇 亡八武士道」


「女体桟橋」

石井輝男が監督デビューして2年目、1958年の作品。とにかく題がすごい。日本から海外へ女たちを売りとばす際に橋渡しをする、外人が出入りするクラブを隠れみのにした、高級コールガール組織のこと。東京租界、という言葉も懐かしく、昭和20年代後期―30年代初期、特に裏社会の雰囲気が好きな人におすすめ。オープニングは、この頃の新東宝の映画音楽を多く手がけている渡辺宙明のご機嫌なモダンジャズとともに、銀座の高級クラブ、アリゾナでのダンサーのショウ。全編通じておっぱいは出てないが、十分むらむらとエロっぽく(寝そべってトランペットを吹くのを、上から撮っている)、後の石井輝男の原型がうかがえる。

売春組織を捜査する、主演の宇津井建の大根ぶりもはなはだしく、ドラマとしては大したことないが、彼に恋するコールガール組織の一員、三原葉子の美と当時の風俗で楽しめる。クラブの場面が多く、渡辺宙明のジャズもたくさん聞けるし、クラブ歌手役で旗照夫が出演している。警察の捜査会議で、コールガール組織の構造が図解される。香港・マカオシンガポールなどに売りとばす女を集める下部組織として、キャバレー、美容院、結婚紹介所はまだ分かるが、“人形教室”には大爆笑。それだけ、まだ女が社会に出てなかった、でも利用はされる、ということでもあって、物哀しくもある。女の調達場所として、ヌードモデル撮影会の様子やファッション・ショウを描き、レトロな水着やネグリジェ(モデルがくわえタバコで出てくる!)のショウの口上も楽しい。

「ポルノ時代劇 亡八武士道」

この題はもっとすごい。「やさぐれ姉御伝 総括リンチ」といい、石井輝男の映画の題からは、よだれが出てきそうだ。オープニングは「やさぐれ」のすっぽんぽんドスの乱闘のインパクトには負けるが、橋の上でのスローモーションの殺陣と、惜しみなく飛び散る手足や血潮、影を生かした赤い照明にしびれる。小池一夫原作で、この人の作品は「子連れ狼」「修羅雪姫」とか、ほんとに映画化がはまる。1973年作。

非合法の売春の繁盛に手を焼く吉原の大元締めが、もう斬りあきた、と川に身を投げた浪人、明日死能(これもすごい名前!)を助けて、非合法売春宿を襲わせる、という話。時代劇にはありそうな設定で、おっぱい乱舞とか石井作品の特徴は十分備え、楽しい作品だが、スターである丹波哲郎が主演だからか、「やさぐれ」ほどあからさまにハチャメチャなエネルギーを発してはいない。それでも、「やさぐれ」と甲乙つけがたく好きな作品。

死能役の、長髪の丹波哲郎は、他の作品と同じふてぶてしい色黒顔で、男でもアイラインがばっちり入っている吉原衆の中で浮いているように見え、完璧なはまり役ではないのでは、と最初は思うが、阿片に犯されながらの最後の乱闘場面の白塗りとのコントラストが生きてくる。「やさぐれ」の池玲子や「網走番外地」の健さんのように役にばっちりはまっていない。が、その座りの悪さがかえって、作品からはみ出したスケールの大きい魅力となっているのか、どうも後を引き、2回続けてみたのに、まだ見たい。

もちろん、しょっぱなから画面を埋めるおっぱい!裸の女たちの乱闘も(擬音が見えそうな劇画的な効果音もおかしい)あるし、総元締めの前にずらーっと並び、新年の挨拶をするすっぽんぽんの遊女たちもおかしい。他の映画でも良く描かれるお上ご公認の吉原だけでなく、非公認のけころや湯女、比丘尼、夜鷹などの売春も描かれているのが、「女体桟橋」もそうだが、人生の裏街道を描く石井輝男らしい。阿片に侵された中でのセックス場面のサイケな照明もかっこいい。石井輝男特集、どこかでやらないかなー。大画面で見たい!!