Babel バベル

 

アモーレス・ペロス」「21グラム」の監督アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ &脚本家グスターヴォ・サンタオラヤによる三作目で、ブラッド・ピットケイト・ブランシェットガエル・ガルシア・ベルナル役所広司らが出演、とついミーハー心をそそられて見に行ったが、後味の悪い作品だった。
ロッコを訪れたアメリカ人旅行者ブラッド・ピットケイト・ブランシェット。ブランシェットは地元の子供に間違って撃たれ、生死の境をさまよう。サンディエゴにいる彼らの子供たちは、メキシコ人ベビーシッターが面倒を見ており、メキシコで行われる息子の結婚式に子供たちを連れて行くが、国境警察との間に不幸な誤解が生じる。一方、東京には、妻をなくしたばかりの役所公司と、その娘の菊池凛子がいて、娘は母のいない悲しみと、聾唖者であることの疎外感と怒りを感じている。

皮肉なことに、一番雄弁な俳優は、耳が聞こえず口がきけないティーンエイジャーを演じる菊池凛子だ。グローバルな世界で言語や文化の違いによって起こる誤解を描いた作品の意図でもあるのだろうが、せっかくのスターたちの才能が無駄にされている感の方が強い。各地の風景は旅行番組から切り取ったようで、決して典型から外れることはなく、スターたちは中途半端にグラマラスで場違いに見え、人物描写も平坦だ。ケイト・ブランシェットにいたっては、撃たれて苦しんでいるか寝ている演技が殆どだ。

少しずつつながっている別々の話が平行して進み、時間の流れが前後して描かれる。「アモーレス・ペロス」では効果的だったジグソーパズルのような形式は、この作品ではまとまりがない印象を与える。強い印象を与える個々の場面もあるが(菊池凛子が大音量のディスコにいる場面では突然音が消え、彼女の疎外感が各地での誤解に重なる)それらの場面が終わると、とらえどころがなくなってしまう。

悪人ではない人たちの、最善とはいえない判断が積み重なって不幸な結果を招くが、大いなる運命を感じさせるほどには説得力がなく、不必要に後味が悪い。最後には明るさを示唆して終わるが、そのころまでには不幸にどっぷりつからされて手遅れ。シネコンで「ボラート」を見終わったばかりの楽しそうな観客を横目に見つつ、どうやって口直しをしようか、と考えた。