Children of Men トゥモロー・ワールド

子供が生まれなくなった近未来の終末的な世界で、不法難民である若い黒人娼婦が妊娠する。人類の絶滅を防ぐために、生まれてくる子供を守り「ヒューマン・プロジェクト」と呼ばれる謎の団体に渡す、という大筋自体は、結末が見えている単純さだが、次々と訪れる困難がもたらすスリルと、情報量の多い作品世界で楽しませてくれる。「ブレードランナー」を思わせる、書き込み密度が高い終末的ディストピアだが、80年代制作の「ブレードランナー」ほどアイキャッチーではなく、より閉塞した近未来像だ。

2027年の世界はテロ、移民問題アブグレイブ刑務所を思わせる虐待、アラブ系とおぼしき民族主義者たちなど、現在抱えている問題の延長線上にある。ご丁寧にも、マイケル・ケイン演じるヒッピー風老人の思い出の品として、ブッシュの写真まで貼ってある。シャンティ(ヒンドゥー語で平和)と唱えるニューエイジな老人や助産婦が、それらの問題に対抗しようとする構造自体は、毎日瞑想をする私でも、安易すぎると思う。が、実際に子供を守るクライブ・オーウェンが、現役でない元市民活動家、というところがミソ。理想そのものでなく、現実に敗れた理想が人類を救う。超党的な団体だろうと推測できるだけで、「ヒューマン・プロジェクト」の実態は明かされておらず、作品の本当の意図は分からない。それでも、黒人で娼婦で不法難民である世界の底辺にいる女性が、人類を救う希望となる設定が多くを語っている。

子供がいなくなった隙間を埋めるように、殆どの場面に犬や猫、馬などの動物が登場する。ノアの箱舟に乗る動物を思わせる終末的な光景だ。「ヒューマン・プロジェクト」が位置する巨大なボートは箱舟だろうか?娼婦がオーウェンに、妊娠していることを明かすのも、キリストを連想させる馬小屋だ。マリアはマリアでも処女でなく、マグダラのマリアである。

そうでないと作品が成立たない、出産の場面は感動的だ。分娩自体は、今まで見た映画の中では一番大変そうだが、それでも本当はあんなもんじゃないだろう。が、破水してから爆撃の中を逃げ回る、普通じゃない状況が加わることで、どこで産もうと、どんな女性にとっても、出産が大事業であることが伝わってくる。

舞台となるイギリスには、近未来の終末的な光景が似合う。アメリカより早く腐っていたからだろうか。移り変わりのより激しいアメリカと違い、現在と同じ服装でも違和感がない。

出番の少ないジュリアン・ムーアは、状況的にも「バベル」のケイト・ブランシェットを思わせる。「グッド・シェパード」のアンジェリーナ・ジョリーもそうだけど、最近、主演と名打つには出番が少なすぎるスターの作品を見ることが多い。

良く出来た作品で、頭も目も満足したが、なぜかいまひとつ肌に合わず、愛着がわかなかった。「クリムゾン・キングの宮殿」や「ルビー・チューズデイ」のカバーなど、ちょっと外したクールさを狙ったつもりが、60年代の雰囲気という以外には選んだ理由が安易過ぎたり曖昧だったりして、微妙に浮いてる選曲のせいもある。