Dreamgirls ドリームガールズ


出演者自体は問題なく、特にジェニファー・ハドソンの歌と、エディー・マーフィーの歌と演技は素晴らしい。が、作品の音楽に致命的な欠陥がある。

シュープリームスをモデルにした黒人女性コーラスグループ、ドリーメッツの栄光と挫折を描く作品にもかかわらず、ドリーメッツの音がモータウンに聞こえない。1981年にブロードウェイでオープンしたミュージカルだからか、おしゃべりなリズムギターやクリーンなドラムの代わりにベタなストリングス中心の音で、作品中にもあるように白人寄りの黒い音を狙ったはずが、実際よりも漂白されてしまっている。クレジットを見た限りでは、一応アレンジしなおされているようだが、モータウンの音にも現在の観客の心をつかむ音楽にもなっていない。ジャクソン5もどきの子供バンドがちらっと出てくるが、こちらの方は音の特徴をうまくつかんでいた。

パワーバラード、特にジェニーファー・ハドソンによるそれが多すぎる。色々バラエティがあった上で、ショウストッパーな曲がより光るのに、全部力の限りの熱唱では、ハドソンが最終選考に残った「アメリカン・アイドル」のオーディションを見せられているようで、せっかくの素晴らしい歌声も聞き飽きてくる。しかも、これらのパワーバラードもモータウンに聞こえない。ハドソンは、表情豊かな歌に比べて、演技はこれからの課題。

ドリーメッツの配役は完璧だ。声は素晴らしいがルックスいまいちのハドソンがリードボーカルだったが、売り出すためにクロスオーバーを狙い、歌は劣るが白人に受けるルックスのビヨンセリードボーカルになる。この変身の瞬間はスリリングで、自分にはとても、といっていたビヨンセは、いったん真ん中でスポットライトを浴びるようになると、前からそうだったかのようにスターになる。役柄とビヨンセのスターとしてのカリスマが一致したスリリングな変身だ。

が、同時に作品自体よりもスターを売り出すための映画、というあざとい印象を受けた。現在のトップスターであるビヨンセを利用して、明日のスターのハドソンを売り出すと同時に、マーフィーの復活を狙う(この二人はゴールデングローブ助演賞を受賞し、制作者の狙いは大当たり)。マーフィーの役柄は麻薬中毒で落ち目になっていく、ジェームス・ブラウンを思わせる汚れ役だが、実際に注射したりする場面はない。注射器を出してしまうと、おそらくR指定になり、ファミリー映画でなくなってしまうので、人気復活には都合が悪いだろうから。