Tears of the Black Tiger 怪盗ブラック・タイガー


フューシャピンクのドレスを着た総天然色の美女が、蓮の池に浮かぶターコイズ色のあずまやにたたずみ、来ない男を待つ。ブラックタイガーと呼ばれるその男は、テンガロンハットにウエスタンシャツを着て馬に乗ったギャングの一員で、仲間とともに敵を襲う。モリコーネ・ウエスタンな音楽が流れ、タイ風の音楽に移行していく。この最初の場面を見ただけで、超キッチュな、スタイルごたまぜのパスティーシュ映画であることが分かる。次に続く写真の場面でも、鈴木清順もびっくりのなシュールな書割が使われ、キッチュ大好きな私は大喜びした。しかもタイ映画。タイ映画は、トニー・ジャー主演のアクションしか見たことないので、どんな変わった作品なんだろう、と期待して、映画館に足を運んだ。

が、喜びも最初の30分間だけ。作品全体を通して、フューシャピンクとターコイズが繰り返されるのだが、下品とかキッチュを通り越して、ただただしつこすぎる。50年代のフロリダを思わせる2色の組み合わせは、私が一番好きな組み合わせなのに、げっぷが出そうになった。花の色やインテリアはもちろん、ターコイズのカウボーイシャツにピンクのバンダナ、薄くさした口紅とチークまでは分かる。が、ギャングと警官が戦う場面で、ターコイズの空にフューシャの血が飛び散り、硝煙までターコイズなのはやりすぎ。ここまで統一感にこだわる必要はないから、人物や感情によって色を変えたりしてほしかった。

まあ、描き分けるほどの人物も物語もない作品だから、仕方がないのかもしれない。レトロな恋愛メロドラマ、ウエスタン、B級アクションなどの要素が混じり、愛と裏切りを描くが、物語自体も昔のソープオペラを見てるようで、ベタな物語をパロディ化しているセンスも感じられなかった。2000年制作で、やはりパスティーシュ作品でもある「キル・ビル」の公開の後、とフェアな公開のタイミングではないことは確かだが、退屈だった。