Zodiac ゾディアック

1960年代末から70年代にかけてサンフランシスコを恐怖におとしいれた、実在の連続殺人犯ゾディアックを追跡する男たちを、デビッド・フィンチャー監督が描く。殺すこと自体にとりつかれているような冷酷な殺人のスタイルだけでなく、暗号文の新聞掲載を要請するなどマスコミを駆使して世間を騒がせ、現在まで解決されていない事件だ。

ロバート・ダウニーJr演じる、ゾディアック担当の「サンフランシスコ・クロニクル」の新聞記者、ポール・エイブリーの存在感が強く印象に残る。彼が着こなす、崩れすぎないが自由の匂いのする業界ファッションも見逃せない。作品の前半は、ゾディアックと対照的に生命力にあふれて派手に画面を埋めるが、片鱗を見せていた自己破壊の衝動に取り込まれ、酒におぼれてスター記者の仕事を辞める。

かわって後半は、世間も警察も忘れてもゾディアックを追い続ける、「クロニクル」勤務の漫画家ロバート・グレイスミス(ジェイク・ギレンホール)が前面に出てくる。新聞社の仕事も辞め、家族を崩壊させてまで、この映画の元となった、ゾディアックについての本の執筆活動に入れ込む。

とりつかれたように殺人犯を究明しようとする彼の衝動を、ギレンハールは説得力を持って演じている。彼自身が殺人犯を逮捕できるわけでもないのに、ゾディアックの顔を面と向かって見てみたいという衝動は言い換えるならば、自分の死と向かい合いたい、という根源的な衝動であることを感じさせる。

独立記念日の花火が上がる、平和で美しい郊外の風景で始まり、対照的なゾディアックの残酷な殺人が続く。再び対照的に、グレイスミスが登場し新聞社に出勤する様子を、忙しいサンフランシスコの朝と共に、動きと生命力にあふれて映すが、それらもやがて死の衝動に飲み込まれていくのだ。殺人とそれをめぐる心理劇としてもミステリーとしても面白いが、2時間40分は長すぎる。