The Simpsons Movie ザ・シンプソンズ


TV放映18年にして初の「ザ・シンプソンズ」の映画化は期待はずれだが、全く見どころ笑いどころがないわけではない。

環境汚染を訴えるリサ・シンプソンの働きかけにより、スプリングフィールドで浄化運動が始まった矢先、ホーマーがペットの豚の糞を池に捨ててしまう。汚染がひどくなったスプリングフィールドは、他の地区からドームで隔離され、ホーマーは住人たちの激しい怒りを買う。。。

前半はビジュアルな下ネタから時事ネタまでギャグ満載で、大いに笑える。冒頭でホーマーに、無料でTVで見れるのに映画館に来る馬鹿な奴、と言われようとも、出来不出来はあれど全くつまらないエピソードはない、驚異的なシリーズの楽しさを、他の人とも分かち合いたい、という思いは裏切られなかった。特別ゲストが次々と登場するわけでもなく、TVシリーズよりスケールもテンションも特にアップした印象はないが、スケールダウンした印象を与えないための見えない努力が感じられる。

が、後半の“アクション”は全てが完璧なテンポ配分ではなく、ホーマーのキャラクターも、TVの20数分では良くても、87分の大画面を支えるには、馬鹿すぎて鼻についてくる。「サウスパーク」なら性格の違う主人公3−4人でバランスが取れているが、シンプソン一家で最も前面に出ているのはホーマーで、この映画も例外ではない。「サウスパーク」程には時事・政治ネタを直接的に扱わないのが持ち味なのだが、少しがんばりすぎた印象もあり、全体として、最良のTVエピソードより劣る。

が、「シンプソンズ」が、馬鹿だけど根は善良で憎めない、アメリカ人の典型を戯画化したホーマーを中心としたホームドラマであることを、強く実感させられる場面はなかなか感動的だった。スプリングフィールドから逃げてきたシンプソン一家は、アラスカに移住する。ホーマーはカナダ(!)にいるんだから、もうアメリカは関係ない、とスプリングフィールドを見捨てようとするが、家族ドラマの結果、自分の町に戻る。マイケル・ムーアのドキュメンタリー同様(「シッコ」では、海外に移住した方が良い、という制作意図と違ったメッセージが伝わってきてしまうものの)、自分の国アメリカとそこに住む人々への愛を描いているのだ。ラジカルな笑いがあっても、保守右翼的なFOXネットワークで長年放送されてきたのは、もちろん視聴率を稼いできたからだが、この愛国的なトーンのためもあるだろう。