麦の穂をゆらす風The Wind That Shakes the Barley


ケン・ローチ監督による昨年のカンヌ・パルムドール受賞作は静かな感動を与える。

1920年アイルランドの英国からの独立をめぐる、容赦ない泥沼のような戦いを、アイルランド側から描く。英国のアイルランドに対する暴力、アイルランド人同士での裏切り者に対する制裁や内戦など、最初から最後までどちらの側にも暴力と死があふれ、美しいアイルランドの自然との対比が、残酷なまでに美しく胸を打つ。レジスタンスを美化せずリアルに描いた映画には「アルジェの戦い」や「影の軍隊」などがあるが、より詩的だ。

デミアンキリアン・マーフィ)はロンドンで医者になるのをあきらめ、兄とともにIRAに参加する。英国との和平条約をめぐり、完全な自由を求める弟と、条約を受け入れようとする兄とで対立が起こる。リーダー格で実際的な兄と比べ、デミアンが受身で温和な性格で、静かな情熱をたたえた目をしているのも、控えめな音楽がいわゆる愛国的ではなく牧歌的なのも、自由に向けての戦いに説得力を与えている。後味の良い終わり方ではないが、アイルランドの戦いは、映画が終わった時点で始まったばかりであることを感じさせる。題名は、英国へのレジスタンスを描いた19世紀のアイルランドの歌で、作品中で歌われ、戦って死んでいった人々に敬意を表している。

背景をきちんと理解していないのとアイルランドなまりのため、微妙な政治問題で分からない点もあったが、緊張感ある強い感情の流れは最初から感じた。その一方で、実際より単純になっているだろう、という気もし、人間ドラマと史実のバランスが完璧かどうかは多少疑問が残るが。