Shadows of Our Forgotten Ancestors 火の馬


BAMでニュープリントが上映されたShadows of Our Forgotten Ancestorsは、今までに見た映画のどれにも似ていない不思議な作品だ。アメリカ映画はもちろんのこと、ヨーロッパや他のロシア映画とも違う。

「神からも人からも忘れられた」という、19世紀ウクライナ西部の山岳部を舞台に、ロミオ&ジュリエット的な悲恋物語が中心に描かれる。イワンコ少年は、父を殺した男の娘であるマリチカと恋に落ちる。成長した二人は愛し合うようになるが、マリチカは崖から落ちて死んでしまう。やがてイワンコは結婚するが、マリチカを忘れることが出来ない。

セルゲイ・パラジャーノフ監督による1964年制作の民族映画だが、村人たちの四季を通じての日々の暮らし(結婚式、葬式、クリスマス、馬や山羊の世話、干草つくりなど)が物語の背景として以上に描かれ、主人公たちよりも集合体としての民族意識をより強く感じ、1時間半の間、ほんとうにウクライナの村を訪れた気がする。嵐の晩に吹き込む風は冷たく、羊の群れは一匹ずつ個性がある。

複数のエピソードからなる、ミュージカルかオペラのような構成で、台詞は少なめ、台詞か効果音がない時には、常に民族音楽プロコフィエフ風音楽が使われ、役者の演技よりも雄弁に物語を語る。サウンドトラック・ベスト5に入れたい素晴らしさだ。葬式や結婚式の歌、羊飼いの歌、ジョーハープ(イワンコの夢の中に出てくる、横一列に並んでジョーハープを演奏するヒゲ男3人は忘れがたいイメージ)やカウベルアルパインホーン(ヨーデルで使われる、地面まで届く長いホーン)、老若男女の歌声が単独で、または台詞や効果音、映像と一体となって、渦巻くようなハーモニーを作り出している。
防寒の実用性から生まれた、ボリュームある重ね着が美しいカラフルな民族衣装(特に男と未婚の女の衣装が良い。デザイナーは必見)や、教会のアイコンの数々も興味深い。

シンプルな内容の民族映画だが、物語の語り口は明快さを避け、抽象的だ。カラーからモノクロ、またカラーに変化する色調、画面に飛び散る赤や黄色、踊る村人をとらえて万華鏡のように動くカメラなどなど。内容のシンプルさ、素朴な民族性とモダンで前衛的な手法のミスマッチが、独特な雰囲気を生み出している。