ヴァン・ヘイレン再結成コンサート


デイブ・リー・ロスが復帰したヴァン・ヘイレンは、現在全米で再結成ツアー中だ。11月3日、ニュージャージーのIzod Centerでのショウは、今まで見た中で最高のロックンロール・パーティーの内の一つだった(マジソンスクエアガーデンのチケットは入手できず)。音のミックスが悪く、最高の“ロックコンサート”とは言いがたいが、デイブの優れたホストぶりは音の問題をカバーしてありあまるものだった。数分したら、耳も慣れてしまったし。

“You really Got me”で始まり、“Running with the Devil”“Romeo Delight”など初期の名曲が続いた。ポジティブなエネルギーが会場中をかけめぐり、特にヴァン・ヘイレンのファンというわけではない私は、連れてきてくれた夫に感謝した。中盤で演奏された“Hot for Teacher” が最もエネルギッシュで、演奏も一番良かった。

デイブはいまだにスタイル良く(お尻も健在!)、声も全盛期から変わっていない。デイブとエディーは以前と違い、エネルギーがありあまっている子供のように 始終駆け回りはしないが、失望はしなかった。ファンだって、年を取ったのだもの。ドラムとギターのソロはあまり感心しなかったが、デイブが舞台にいさえすれば、彼がホストを務める最高のパーティーだと感じることができた。デイブは本当の仲間だと観客に思わせてくれる、プロ中のプロだ。 落ち込んだら、“ジャンプ”で一流のチアリーダーのようにバトンを振り回していた姿を思い出そう。

デイブのホストぶりにあまりにも魅了されたため、ファンの間でこの夜最大の話題となった、エディーの人格崩壊は見逃した(モニターに問題があったにもかかわらず、PAがそれを直さず、ついにモニターを引きずって行き、PA担当に向かって蹴飛ばした)。ソロ直後の “Ain’t Talking About Love”で、イントロからしばらくチューニングが狂っていたのには気がついたが。確かにミキシングの状態は悪く、ギターだけでなく、デイブのジョークも不明瞭だった。何たることだ。 なぜ、これほどの金持ちバンドがまっとうなPA担当者を雇えないのか、なぜ観客が質の悪い音に対し高価なチケット代を払わなければいけないのか、納得がいかない(私たちの席は、チチェンイツァのピラミッドを思いだしたほど、アリーナ後方の席だったが、それでも80ドル)。CDの売り上げが落ち込み続けている中、音楽業界はファンによりいっそうの敬意を示すべきだろう。

エディーの息子ウルフガングのベース演奏は、デイブ&エディー・ヴァン・ヘイレンのバッキングとしてはまっとうだった。 もちろん、プロのミュージシャンとしてのキャリアを追求するなら、舞台での存在感がなければダメだが、彼はまだ16だし、長年のプロと比較するのは酷だろう。ともかく、ウルフにとって考えうる最上のデビューの機会であり (多くの観客が子供を連れて見に来ていることだし)外からベーシストを雇う金の節約にもなる、という鋭いビジネス感覚だ。

アンコールは “ジャンプ” で、このヴァン・ヘイレン最大のヒット曲が流れ出すと、 実際の曲の価値よりもセンチメンタルな価値の方が大きいことが分かる。が、それは彼らも十分承知で、ラスベガス風見世物の要素が入ってくる。ミラーボールに紙吹雪、空から出現する巨大なマイク(ショウの前には、飛行船型の黒い風船も常に上向きで飛んでいた)。オスカルみたいな刺繍入りジャケットにネイビー帽をかぶった、ゲイと自らのマッチョさの両方を笑っているような衣装のデイブはマイクに馬乗りになり、マイクを頭上にかついで花道を歩く(S 型のセットが舞台に設置され、Sの上部は舞台に向かって下り坂になり、下部は客席に張り出している、シンプルで効果的なデザイン)。デイブは上記のバトンも披露し、家に持って帰れるほど大きな笑顔をプレゼントしてくれた。

終演後のロビーは東京の地下鉄を思わせる混雑だった。といっても、ニュージャージーのショッピングモールの買い物客から女子供の割合を少なくしたような人ごみだったが。殆どは30代後半から40歳代にかけての白人の男で、男 7: 女3の割合。ラティーノと黒人はほんのわずか、アジア人にいたっては私たち夫婦以外に一人見ただけ。ファッション的には何も見るものなし。私はデイブに敬意を表して、黒レース Tシャツの下に金色のブラ、タイトな黒ジーンズにブーツ、毛皮という格好だったのにつまらん。家畜の群れのような男たちを眺めながら、彼らが80年代半ばにおくった青春はどんなだったのだろう、とぼんやり思った。

ボブ・マーリーの息子、キマーニ・マーリーが前座だったが、見なければ良かった。80年代の私はハードロックよりもレゲエやスカ、ニューウェイブが好きだったが、“No Woman No Cry” “I Shot the Sheriff”はニュージャージーのバーで演奏するカラオケバンドのようだった。アイ・スリーズ(ボブ・マーリーのバックアップボーカル)の代わりに、女性コーラス二人、生ホーンの代わりのシンセサイザーが哀しい。歌声は父親にそっくりだが。ニュージャージーのアリーナというのも、レゲエを演奏する最悪の場所だろう。夏の野外で、黒人が多い地区だったら、場違いな感じはしないのに。