Junoジュノー

予想外の妊娠を題材にしてこの夏ヒットしたコメディ「Knocked Up」をティーンの女の子の視点から描いたといえる作品だが「Knocked Up」の方が少なくとも20倍は笑えて泣ける。

その一番の理由は、女より男の方が自然なコメディアンだからだと思う。ティーンでも大人でも女の方が現実的だし、おバカ度は少ない。椅子から転げ落ちそうな笑いのかわりに、より微妙なユーモアが多く、時には女同士の陰湿さを笑ってさえいる。友達とセックスして妊娠した16歳のジュノー(エレン・ペイジ)が自らの状況を笑うユーモアと、他人にも自分にも歯に衣着せないウィットに富んだ物言いが素晴らしく、家族や親友など脇役も悪くないが、コメディというよりは心暖まる要素が強い(女同士の連帯には目が熱くなった)。

ジュノーも子供の父親であるポーリー(「スーパーバッド」のマイケル・セラ)も非常に好感が持て、似合いのカップルに見えるにもかかわらず、ジュノーが彼にひきつけられる描写が弱い。「Knocked Up」の方がはるかに荒唐無稽な話なのに、カップルの関係がきちんと描けていて説得力があり、ぼろ泣きさせられた。愛情と理解と知性があるジュノーの父親役をうらやましく思いつつ、んなのあるわけないじゃん、と画面に向かって叫んでいた。

中絶クリニックに行ったジュノーは、受付や待合室の雰囲気の悪さに怖気づき、子供ができないヤッピー夫婦の出した新聞広告を見つけ、お腹の中の子を彼らの養子にする話を進めていく。夫婦の片割れマークとジュノーは、音楽という共通の趣味を通して仲良くなる。30代後半とおぼしきマークはグランジ好き、ジュノーが好きなのはストゥージスやパティ・スミスなどパンク前夜の70年代ロック。若い彼女の方が「ソニックユースなんてノイズ!」と叫ぶ場面にくすくす。でも、これが一番おかしかったジョークだから、他のジョークは察してしかるべし。

米国メディアのあちこちで今年のベスト10に入っている話題の作品で、批評家にも一般にも受けのいいヒット作だが、去年の「リトル・ミス・サンシャイン」のように、実際より高く評価されすぎた独立系作品。「サンキュー・フォー・スモーキング」のジェイソン・ライトマン監督。