アイアンマンIron Man


ロバート・ダウニーJr主演のスーパーヒーロー映画「アイアンマン」が5月2日に公開された。1週目の興行成績は約1億ドルと大ヒット、2週連続で第一位となり、夏の大作映画興行は好調にスタート。麻薬問題でキャリアが中断していた演技派ダウニーJrの、完璧なカムバック作となった。

NYで最もステイタスのある映画館Ziegfeldで初日夜に見た。1960年代に建てられた古き良き時代の大劇場で、画面もびっくりするほどデカイ(客席数1131)。当然、客のノリも良く、楽しい映画を楽しく見た。

ダウニーJr演じるトニー・スタークは、私が映画で見た中で最も人間らしくウィットがあり、セクシーなスーパーヒーローだ。スーパーヒーロー映画としては、やはりマーベル制作の 「スパイダーマン2」の方が一貫性があり出来も良い。とはいえ、いくらピーター・パーカーが人好きのする感情移入しやすいキャラクターでも、結局はおたく青年だ(私の夫は紳士的なおたくで、おたくに対する偏見はないが、ここでは映画のセックスシンボルについて語っている)。ダウニーJr =トニー・スタークのキャスティングは完璧だ。トニーは天才科学者で、美女と酒を愛するお洒落でスケールの大きい不良だ。それでいながら、非常に繊細な状況に追い込まれ、文字通り生死をかけてのたうち回る。ダウニーJrのキャリアとドラッグ問題についてのゴシップを少しでもフォローしている人であれば、この配役に興奮しないはずはない。そして、その期待は全く裏切られなかった。

物語とそれを進行させるためのデバイスは、常に説得力があるわけではない。軽いタッチの、左右が混じった社会派コメントも、作品を楽しむためには少し邪魔だ。スーパーヒーロー映画には珍しい知的な作品であることは非常に評価でき、作品の殆どの場面ではそれはプラスになっているが。

トニー・スタークはハイテク兵器を製造販売する億万長者で、彼の親友ローディ(テレンス・ハワード)は米空軍高官であり、トニーは明らかに軍備賛成で、ダウニーJr 同様の右派であるところから物語が始まる(GQ 誌5月号に掲載されたダウニーJr のインタビュー記事によると、ブッシュと写っている写真が冷蔵庫に貼ってある)。ところが、一面的な悪として描かれるアフガン・ゲリラに誘拐され、兵器を作るよう拷問を受ける。発明の才能を利用して逃げ出し、米軍ヘリが愛国的音楽と共にトニーを救出(自己を笑うセンスはここではなし)。彼の会社の従業員と、政府と軍部のPR屋であるに過ぎないという印象を与える記者たちがトニーを歓迎する。

トニーは、アフガンでの生死の境をさまよう経験(彼自身の会社のミサイルが米兵を殺戮)後、自らの天才的才能を兵器製造でなく、世界平和のために使おうと決心する(アイアンマンのハイテク技術は、アフガン市民への”友軍砲火”すら避けることができる!)。事業のパートナー(ジェフ・ブリッジス)が指摘するように、トニーの目覚めは死の商人としてはナイーブ過ぎるように見える。彼が世間知らずのハイテクおたくでないから、なおさら不自然だ。ダウニーJr とトニーの接点は、他の場面では完璧に機能しているものの、ここでは強調されすぎているようだ(ダウニーJrは監獄で地獄を見たかもしれないが、、、)。が、これらの展開自体が説得力に欠けていても、優れた役者たちによって演じられると、全く気にならなくなる。特に、二つの感情を同時に表現できるダウニーJr が素晴らしい。

スーパーヒーロー物にとってのお約束的場面が沢山あるが、ダウニーJrの素晴らしい演技と、彼自身の過去と役柄のオーバーラップにより、 それらに生きた心が通っている。トニーの心臓に付いている装置についてのエピソードでは展開が予想できるにもかかわらず、ダウニーJr が装置を探して床を必死に這いずり回る様子はドラッグ問題を連想させ、高価な制作費だけはある爆発や飛行場面と同じか、さらにスリリングだ。別の約束事は、トニーがアイアンマンのスーツを作る場面だ。ダウニーJr は機械的なプロセスを非常に人間くさく、セクシーでユーモラスに見せている。GQ 誌の撮影から抜けでたような格好の時も、破れたTシャツでも(これも決まり文句だが)常にセクシーだ。アイアンマンのマスクを被ったときの、表情豊かなデカイ目といったら!

ダウニーJr は、言葉によるウィットと身体的ユーモアの両方を巧みに表現している。テレンス・ハワードと、微妙でいながら飛び切りなセクシーさを備えた、トニーの超有能なアシスタント役グウィネス・パルトローにもユーモラスな場面が用意されている。トニーがアイアンマンのスーツを改善する過程で繰り返し墜落する場面は、非常におかしいジョークであると同時に、アイアンマンがダウニーJr 同様に堕ちた苦闘するヒーローだと示唆している。スーパーマンは地球に墜落してきた。墜落は、より高く飛ぶスーパーヒーローになるために不可欠な経験であり、同時に観客の共感を呼ぶ。墜落後のアイアンマンも、ダウニーJrのスターダムも、鉄のように強固になった!そして、くれぐれもエンドクレジット後のお楽しみを忘れずに!!