Frost/Nixon


ウォーターゲート事件で失脚してから3年後のニクソンの、デビッド・フロストによる有名なTVインタビューとその内幕を再現した作品。ウエストエンドとブロードウェイで上演されたストレート・プレイの映画化であり、ニクソンフランク・ランジェラ、フロスト役マイケル・シーン共に舞台からの続投で、二人とも役になりきっている。ロン・ハワード監督、台本は原作と同じピーター・モーガン

ニクソンの煮ても焼いても食えない政治家の面と、圧倒的な孤独ともろさを同時に表現するフランク・ランジェラがとにかく素晴らしい。彼は舞台版でトニー賞主演男優賞をとったが、オスカーにも値する演技だ。アンチ・ヒーローとしてのニクソンに、好感とまではいかなくても共感してしまうこの作品は、ニクソン/フロストと呼んだ方がふさわしい。が、フロストがスパーリングの相手としてふさわしくないわけではない。

政治のプロではなく、イギリスのトークショー・ホストにすぎないフロストは、それゆえに、政界復帰をもくろむニクソンが容易に出し抜ける相手と見なされる。が、フロストも落ち目のキャリアと財産を賭けて、ニクソンからウォーターゲートについての謝罪を引き出そうとする。12日間28時間以上にわたるTVインタビューの収録を追った、作品の後半全部を通して、この二人の知力のスパーリングと駆け引きにはらはらっしぱなしだ。最初、ニクソンは余裕でかわすが、フロストもプロデューサーや調査チームの力を借りながら追い上げていく。その過程で、外見は全く違うニクソンとフロストの共通点−プロ意識とエゴ、もろさが見えてくる。ウォーターゲートについてのインタビュー前夜に、ニクソンがフロストに電話する場面は、喰うか喰われるかの戦いであると同時に、ニクソンの不安と孤独をも鮮やかに表している。

実際のフロスト/ニクソンのインタビューを少し見たが、本物のニクソンは、さわやかなフロストと対照的にもごもごしゃべるランジェラ・ニクソンよりもはるかにクリアな発音で、「普通」の政治家に見えた。ランジェラのやや不明確なしゃべりは、歯切れ良いしゃべりよりも、かえって視聴者の注目を集める計算とも取れ、ニクソンのしたたかさを表す演技の一部なのだろう。が、政治家がしたたかでスムースというイメージに大きく貢献しているのは、他ならぬニクソンであり、そのイメージに大きな影響を与えたのが、このインタビューだ。だから、ウォーター事件で権力を悪用したことに対するニクソンの罪悪感のなさと、事件が米国民に与えた政治への失望が描かれているこの作品は、ブッシュの任期が終わろうとする時期の公開に、より一層ふさわしい。

現在公開中だが、ネットからダウンロードしてビデオで見た。元々舞台作品とはいえ、TVインタビュー場面はビデオで見てこそ、その真価が分るかもしれないと思った。TVインタビューでの特質を生かしきった決定的瞬間は見てのお楽しみ。