The Curious Case of Benjamin Button


It is a very curious movie, indeed.
題名どおり、非常に不思議な映画で、デビッド・フィンチャー監督の最高作であり、今のところ2008年のベストでもある。スコット・フィッツジェラルドの同名短編が元になっている。
フィンチャー作品は前作「ゾディアック」のように、物語や登場人物の感情よりも、細部まで手を抜かない緻密な雰囲気を重視する傾向があるが、この作品はムードに引き込まれるだけでなく、おおいに感情移入させてくれ、久々に映画を見て泣いた。老人の外見で生まれ、年を取るごとに若返っていくという、現実にはありえない男ベンジャミン・ボタン(ベン)の生涯を描きつつも、誰にでも身近な生と死が身に迫ってくる。
その一番の理由は、魔法のようなCGとメイクアップだ。車椅子に乗っているしわだらけの幼年時代から、ブラッド・ピット演じる20代後半から老年期の初め(しわのない少年ブラッド・ピット!)、さらに年老いて全くの赤ん坊になってしまうまで、CGが駆使され、同一人物が目の前で変化していくと分る、確かな一貫性を与えている。後ろ向きに時計が進む「奇妙な事例」を楽しみつつも、ベンが自分の分身のように感じられる。幼年期のベンが運命の人となるデイジーと夜中に遊んでいるといると、子供同士と思われず、老人が幼女を誘惑していると誤解されてしまう場面は悲しい。
ハリケーンカトリーナが迫りつつあるニューオーリンズの病院で、死の床にあるデイジーが、ベンの日記を年代順に娘に読ませるという設定も、過去を振り返るという後ろ向きの要素を加えることで、ベンの不思議さを理解しやすくしている。病院もベンが育った養老院でも時は流れ続け、我々の日常生活同様に、生と同じく死が隣りあわせている。
特に前半は、第一次世界大戦後の古き良きニューオーリンズやロシアの味わい深い光景と、若いのに年寄りに見えるベンが美しくも不思議な世界を作り出し、ぐいぐい引き込まれる。3時間近い作品は完璧ではなく長すぎるが、その一番の理由は、若返っていくベンと年老いていくデイジー(ケイト・ウィンスレット)の外見が釣り合い、彼らにとって一番幸せな時期である60年代の場面が退屈なことだ。ピット&ウィンスレットの実際の年に近い場面なのでCGなしである。ピットは駆使されるCGに負けないだけの存在感があるが、かといって演技が優れているともいえない。が、その中だるみも、デイジーが年老い、ベンが彼らの娘よりも若くなっていくにつれて解消される。
この作品の魅力を説明するのは難しい。若返っていくベンが、愛する人たちが年をとっていくのとすれ違う悲しさと、それでも愛することを止められないというだけの物語は、ネタばれしても作品を楽しむのに全く問題ない。CGは優れているが感傷的すぎ、歴史の描写にも深みがないと、批評家にはあまり評判が良くないが、映画を見てあまり泣くことのない私は、この奇妙で美しい物語に感動した。リアリスティックだからといって感情移入できるとは限らない、フィクションの不思議さを考えさせる作品でもある。

クリスマスの夜のフィラデルフィアで、この作品を見ていた観客の一人が、おしゃべりがうるさいという理由で、前の席に座った家族連れをピストルで撃つ事件が発生した。
http://www.cnn.com/2008/CRIME/12/27/movie.shooting/?iref=mpstoryview

訂正:ブラッド・ピットの少年&老年時代の体は他の役者が演じ、CGによって老けさせたピットの顔をはめ込んでいる。