Gran Torino


クリント・イーストウッド監督の最新作。スラム化しつつあるデトロイト郊外を舞台に、朝鮮戦争に従軍し、フォードの自動車工だった老人ウォルト・コワルスキ(イーストウッド)と、その隣人であるモン族の姉妹との交流を描く。妻に死に別れたばかりのコワルスキは、息子たちとも疎遠な頑固者で、へらず口の年寄りである。自分が長年暮らしてきた場所に新たなコミュニティを作りつつあるモン族の隣人たちに対して人種差別的な言動を取るが、徐々に心を開いていく。
そつなく出来ているが、生と死・人種問題や貧困などの深刻なテーマを(ジョークを交えつつ)シリアスに扱う姿勢にもかかわらず、表面しか描いていない印象で、見終わった後に何も残らない。つまらない作品というわけでは決してない。
題名になっているコワルスキの愛車グラン・トリノを盗もうとして、ガレージに侵入する隣家のティーンエイジャーにライフルをぶっ放そうとするイーストウッドは相変わらずカッコよく、彼を見るのは楽しい。でも、それが作品の問題でもある。ダーティーハリーや「硫黄島からの手紙」のサムライと彼の姿が重なり、役柄でなくイーストウッドにしか見えないため、せっかくの興味深いリアルな題材がファンタジーになってしまっている。表面的なPCだけを気にするハリウッドや都市の住民と比べて、可笑しくも小気味良いコワルスキの本音の毒舌が生かしきれていない(イーストウッド自身も、「多くの人がPCに飽き飽きしている」と12月14日付のNYタイムズのインタビューで語っている)。「ラッシュアワー」的人種&カルチャーショック的ジョークに、必要以上に流れすぎの場面もあった。