12(「12人の怒れる男」)


シドニー・ルメットの名作「十二人の怒れる男」を現代のロシアに舞台を置き換えてリメイクした「12(邦題:12人の怒れる男」)は、オリジナルに遠く及ばない。12人の陪審員が、養父殺し容疑に対し評決を下そうとしている。最初は全員一致で有罪間違いなしのように見えたが、陪審員の一人が合理的疑いを抱いたことから評議は長引き(2時間39分!)、意外な方向に向かっていく。
容疑者をチェチェン紛争で孤児となり、ロシア将校に育てられた若者という設定に変え、チェチェン人に対する偏見やソ連崩壊後の資本主義&成金の台頭、政治の腐敗など、現代ロシアの問題を盛り込んだ意欲は評価に値し、ロシア情勢に興味ある人には十分面白いと思う。とはいえ、ロシア政府が制作にかんでいるのかどうかは定かではないにしても、我々が西側メディアを通じて表面的に知っていることや容易に想像しうる以上のものが伝わってこない。現地発ならではの生の感触や具体性を表現しきれておらず、それ故にオリジナルのような普遍的なクラシックにはなりえていない。
特に、各陪審員が自己を語る長台詞には閉口した。ウォッカなしでもロシア人はあんなに話がくどいのだろうか?比喩を使った後で、その比喩の解説をして効果を台無しにする無粋さにも憤慨。これがロシア的なのだとしたら、省略の効いた良い映画作りとは正反対だ。