Brunoブルーノ


ボラット」に次ぐサシャ・バロン・コーエンの主演作品「ブルーノ」は、「ボラット」ほど独創的ではないものの、「ボラット」以来最もおかしな映画だ。ブルーノはゲイのファッションレポーターで、オーストリアからアメリカに名声を求めてやってきた。過激で攻撃的なゲイ・ジョークを通して、観客の同性愛嫌悪を笑う意図の作品である。「ボラット」の時もそうだったが、とにかく笑い続けて、終わった後でマラソンを走った後のようにぜーぜーした。イーストビレッジの映画館の観客は、ストレート3にゲイ2といったところで、両方に大いに受けていた。
この作品がなぜおかしいかを説明するのは難しい。ギャグを一つずつ挙げていくうちに、全部ネタばれしそうになる。ゲイのセックスは、しょっぱなから大きく誇張されて笑いを取りまくる。筋肉もりもりの小人アシスタントと、特別なエクササイズマシンに乗りながらアナルセックスを行う。有名人にインタビューして有名になろうとするが、B級セレブ(=ポーラ・アブドゥル)にしか会えず、家具がないので、彼女をメキシコ人の人間椅子に座らせる。有名人をダシにしてセレブになる計画は挫折するが、マドンナやアンジーを真似てアフリカの赤ん坊を養子にし、「OJ」と名づける。その赤ん坊を連れて、黒人観客ばかりの「みのもんた」ショウのような番組にダラスで出演し、赤ん坊は「dick magnet」だと言ってひんしゅくを買う。有名になるためにストレートになろうと試み、ゲイをストレートに改宗させるアラバマの牧師を訪ねる。ストレートになるためにスポーツを勧められ、テコンドー道場に行くが、ディルドからの護身法を学ぶなどなど。中東のテロリストに向かってオサマ・ビン・ラディンを侮辱したり、ストレートの乱交パーティーに参加してS女の鞭打ちを受けるなど、危険も伴う撮影である。
馬鹿な外国人ジャーナリストが相棒と共にアメリカを訪れるのはボラットと同じ図式だが、どっきりカメラ形式に対する新鮮さと衝撃は薄れ、よりやらせが多い印象だ。「みのもんた」ショウのスタジオ観客は明らかに本気で怒っているが、司会は事前に知らされていたように見える。でも、自分の子供をスターにするためには、子供にナチスの格好をさせたり、十字架につるすこともいとわないと語る親はきっと本物だ。
また、ナルシストで攻撃的なブルーノは、ボラットと違って洗練されているが、ボラットのように無知な可愛さがなく人好きがしない。ボラットより英語がしゃべれるため、アクセント以外は彼の英語に関するギャグは少なく、ボラットの「Big Success」「Not」「Sexy time」など一ヶ月は笑えた、シンプルなキャッチフレーズもない。
ボラットでは、無知なカザフスタン人を通して、アメリカ人観客の無知を笑う構造になっていたが、ここでは、ゲイジョークを通して、ストレートの人々のホモ嫌いを笑うよりも、ゲイサイトのwww.advocate.comが評するように、「ソーダを3列先に吹くほどおかしいが」「ゲイそのものを笑っている」度合いが多い。観客の倫理に対して綱渡りを試みたハイ&ローなボラットと違い、ひたすらローである。有名になるためなら何でもする人々をも風刺しているが、ゲイジョークほどはおかしくない。劇場ではゲイにもうけていたが、ゲイの友人にも感想を聞いてみるつもりだ。
ちなみに、ゲイの活動団体GLAADは、ゲイ嫌いを風刺する作品の制作意図を認めながらも、ストレートのゲイに対する不快感を助長するとして非難している。が、上記のadvocate.comは、わざわざお金を払ってゲイらしいゲイについての映画を見る観客に対して、的外れな非難だと評している。
http://www.advocate.com/exclusive_detail_ektid97452.asp
http://www.advocate.com/exclusive_detail_ektid99827.asp?page=3