イルカとトヨタ、真田広之

和歌山県太地町行われているイルカ漁を告発したドキュメンタリー映画ザ・コーヴ」がアカデミー賞を受賞しました。以前の日記にその感想を書いて、コメントも幾つかいただきましたが、そのままになっていたので、これを機会にその後気が付いたことなどを補足したいと思います。
http://d.hatena.ne.jp/djmomo/20090829#c1268134613
実際のところ、反捕鯨や反イルカ漁に反対しているのは、アメリカ人の多数ではありません。彼らの多数は、工場畜産の牛肉や鶏肉を食べていて、反捕鯨の人々はしばしば動物愛護家やベジタリアンで、いわば少数派です。多くの人々は、捕鯨や自分に関係ない外国のことなんて気にしちゃいません。報道を見る限りでは、そうは思えないのが、まさにメディアのトリックで、肉食と反捕鯨という別々のアメリカ人のステレオタイプがごっちゃになっている訳です。そこら辺の機微は、サウスパークの反捕鯨エピソードが鮮やかに描いています。
http://www.southparkstudios.com/clips/254173
捕鯨やイルカ漁に反対も賛成側も、これを見て頭を冷やしてから、議論したらいいと思う。
日本でも、「ザ・コーヴ」を見てから、作品の批評や議論をしたらいい。
私個人としては、鯨が小学校の給食に出たたぶん最後の世代でもあり、鯨やイルカの食文化の存在は承知していますが、すでに需要が多いとはいえない、やがて滅び行く運命にある産業にしがみつくよりは、太地の人たちは徐々にでも別の生計の方法を考えたほうが良いのではと思ってしまいます。政府の助成金は、そういうところにこそ使われるべきだ。日本国内の限られた需要しかない産業は、外部からうるさく言われなくても、結局は滅びていくのではないでしょうか。でも、それだけに外部から言われるのは腹が立つのかもしれません。
とはいえ、9日のニューヨークタイムズには、「ザ・コーヴ」のスタッフが、サンタモニカの寿司屋で鯨肉を出しているのを撮影したという、ほっておけば滅びるかもしれない傾向を逆なでするような記事が出ていました。これには、カリフォルニアの寿司愛好家の間で、日本直輸入の珍味を食べ比べるのが流行っているという背景があるのですが、流行に敏感なことを誇るこれらの人々は、もしかしたら、プリウスに乗ってるのと同じ層かも知れない。
http://www.nytimes.com/2010/03/09/us/09sushi.html?em

プリウスといえば、アメリカの主要メディアで毎日攻撃されているトヨタのリコール。日本で報道されているような、デトロイトを保護するオバマ政権陰謀説の是非はさておき(全く政治的意図が働いていないと考えるのは不自然だが、それがどの程度かは分からない)、消費者はバカじゃない。去年実施された景気対策のためのエコカー補助金で最も恩恵をこうむったのは、日本車と韓国車だった。今回のリコール後にフォードは大きく売り上げを伸ばしたものの、ホンダと日産、スバルとフォルクスワーゲンの伸びはGMより大きい。トヨタの売り上げは落ちているものの、メディアの口ぶりほどではなく、もともと売り上げの厳しい2月に10万台を売っている(フォードとGMは14万台、クライスラーは8万台)。カローラと米国で一番人気のあったカムリは、未だに人気車種4位と5位の座を占めている。
http://www.nytimes.com/2010/03/03/business/03auto.html

そういえば、ABCテレビの人気番組「LOST」に、真田広之が「精神的指導者」みたいなニューエイジな役で最近ゲスト出演していた。まともな英語をしゃべれるのに、英語をしゃべると舌が汚れるからというのと、カリスマ性を出すために、日本語でしゃべって通訳させるという、嫌味な役を演じていた。「ヒーローズ」では日本のオタクがヒーローになったりと、全米ネットでの日本に対する印象が比較的オープンで柔軟になってきたからこその設定だと思うが、反日感情を起こしかねないトヨタのリコールとの偶然のタイミングに驚いた。とはいえ、平日9時の人気テレビ番組といえば、車のCMの稼ぎどころ。商売は商売なわけで、リコール直後こそトヨタの宣伝は見られず、その分他のメーカーの宣伝が増えている印象だったが、翌週からはトヨタが精力的に巻き返しを図りだして今に至っている。