Alice in Wonderland アリス・イン・ワンダーランド


ティム・バートンが、「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」を元に3D映画を作った。
面白い題材がこんなにつまらなくなるなんて犯罪だ!さしずめ、「Alice in a Land without Wonder(不思議のないアリス)」といったところ。
原作のアリスファンにとっては、文句は山ほどある。中でも一番の問題は、シュールとノンセンス、混沌が魅力の世界に、白黒(この場合は白赤の女王)はっきりした善悪の論理を持ち込んだことだ。その結果、アリスでなくてもかまわない、ありふれた冒険ファンタジーになってしまっている。アリス19歳という設定なので、原作と同じ物語が繰り返される必要はない。でも、アリスと銘打つからには、原作世界へのリスペクトが必要ってもんじゃないか。それなのに、不思議でダークな世界を表現してきたティム・バートンは、意外にも「アリス」の世界が好きなようには見えない。デビッド・リンチかクローネンバーグだったらどう撮るだろうか。
奇妙な動物や人物とのくねくねした出会いは削られ、暗くて魅力的なはずの森は荒野と化して、「不思議の国」のクライマックスにしか登場しない赤(ハート)の女王へ真っ直ぐに続いている。そこで待っているのは、姉妹である赤白の女王の争いに巻き込まれたためのモンスターとの闘いであり、ヒロインとして闘うかどうかの決断を迫られる、ファンタジーにありがちなパターンである。別物と割り切ってアクション映画として楽しめれば構わないが、いかにもCG映像なトランプ兵の戦いは安手で活気がないし、モンスターとの闘いもあまりスリリングではない。
アリスは、自分が経験している不思議な出来事は夢だと思っていると度々語る。確か原作にもそういう箇所が出てきたが、常にウィットと共に語られる。ところが、映画ではストレートに語っていて興ざめだ。映画で実存的な疑問を口にするのは小説よりも難しく、できれば言葉にしないで感じさせてほしい。文字通りに映画化しようとして本質を見失っている気がした。ジェファーソン・エアプレインの名曲「ホワイト・ラビット」が、2分30秒で「アリス」の本質をつかんでいるのと対照的だ。
犠牲者顔なのに戦うヒロインを演じているアリスも、弱い主人公が成長するというお決まりのパターンというよりは、無理してる感じ。ただ、一緒に見た私の夫は、意志が強いという全く逆の印象を受け、アリスの世界に馴染みのない彼は作品自体も楽しんでいた。衣装も、性格設定同様に中途半端なドレスで、赤の女王の宮殿を除き灰色がかった背景には合っているものの、印象に残らない(どぎつい色の風景も出てくるのだが、灰色の印象の方が強い)。アリスの婚約パーティーの場面で始まるのだが、それほど長くないはずなのに、その退屈さときたら、助けてウサギ!お姉さんの読んでいる、絵や会話のない本に眠気を誘われるアリスのように感じた。ウサギ穴に落ちて、鍵のかかっている扉を見つけ、体のサイズを変えるまでの場面もテンポが悪くて、その後の場面を予告するかのようにわくわく感に欠ける。
へレム・ボナム・カーターの赤の女王はまあまあの演技だったが、ジョニー・デップはミスキャストかもしれない。ジョーカーというか白塗りの歌舞伎メイクでコスプレ状態の衣装は、演技面でのハンディキャップではあるだろうが、彼とバートンは「シザーハンズ」という傑作を生み出したこともある。原作より出番が多いのにもかかわらず、キャラクターを出そうとする努力が空回りに終わっていて、見苦しいダンス場面もあった。
ちなみに、もともと2Dで撮影してから3Dに変換されたとのこと。ニューヨークタイムズの評を始めとして、この作品の3Dがあまり評判良くないので、2Dで見た。私は、「アバター」の3Dでさえ、2Dよりもかえってチープで悪い意味で現実感がなく、3Dメガネの不快さのほうが勝ると感じ、内容の幼稚さはさておき、技術的にまだまだ研究の余地があると思った。
最近、意地悪なウサギを描くのに凝っている。このウサギを元にして、アリスの絵も制作中。埋め草的に描いた、比較的愛着のない中央上のウサギが高校時代からの友人に、あんたに似てるといわれてドキッ!その右はうちの猫がモデル。

期待していたアリスにはがっかりしたけど、今気になる春の映画はこの2本!
「The Runaways」70年代の女の子ロックバンド、ランナウェイズを描いた映画。ボーカルのシェリー・カーリーをダコタ・ファニングが、ジョーン・ジェット役は「トワイライト」のクリステン・スチュワートが演じている。3月19日公開。
http://www.youtube.com/watch?v=dUB6pTms06U

4月16日公開の「Kick Ass」は、漫画好きな高校生男子が、スーパーパワーもないのにスーパーヒーローになるコメディ。「スパイキッズ」を思わせる家族ドラマの要素もある。「アイアンマン2」よりも面白そうだ。
http://www.youtube.com/watch?v=krOzVRj9z88&feature=related