Hot Tub Time Machineホットタブ・タイムマシーン


マルコヴィッチの穴」「ハイ・フィデリティ」以来久々のジョン・キューザック主演の快作。現実に失望した40がらみの男友達3人が、80年代に「人生最高の週末を過ごした」スキーリゾートを訪れるが、さびれている。せめてパーティー気分を味わおうと、酒を飲みながら、ホテルの屋外ジャグジー(ホットタブ)に入るが、翌朝起きてみると、24年前の1986年にタイムスリップしていた! ホットタブがタイムマシーンになったのである。彼らは、現在に戻るために、当時起きたことを繰り返そうとするが。。。
予告編を見た限りでは完全なおバカ映画で、キューザックもミッキー・ロークやダウニーJrなど自虐ネタを使って最近復活した80年代スターの仲間入りかと思わせたが、それだけでは終わらない。最初から最後までバカさを維持しながらも、内容がある。下ネタやホモ差別中心で一つ一つの精神年齢は低いが、さじ加減とタイミング、ポイントの押さえ方が絶妙なジョークが大量に繰り出される。80年代の学園青春映画の顔だったキューザックが製作にかんでいるだけに、時代考証も完璧だ。監督は「ハイ・フィデリティ」の脚本をキューザックとともに手掛けたスティーブ・ピンク。
キューザックが80年代に主演したスキー物学園映画「Better Off Dead」や、マイケル・ジャクソンからネオンカラーのファッション、ポロシャツ2枚がさねまで当時の風俗がふんだんに引用される。主人公の友人ルーは、キューザックが演じた高校生同様に、女にふられて自殺しようとし、スキーインストラクターにはいじめられる。時代は違うが、「あの頃ペニー・レインと」の70年代のように、キュートに消毒された時代考証ではない。当時を知り尽くし、懐かしさを感じながらも、二度と戻りたくないと思っている一方で、現在の生活にも満足しておらず、別の選択ができたのではないかと後悔する40面のおっさんたちの目で描かれる、もともとキッチュな80年代風俗は、今から見ると悪趣味で、でも勢いはある。自己嫌悪的なノスタルジアを表現するのに、80年代ファッションは適しているのかもしれない。
ジャド・アパトウ作品と同じくらいに男目線で男の友情を描いているが、それらと違って、こんな都合のいい女がいる訳ないと思わせないのは、おっさんたちが自分の惨めさを自分で一番承知しており、登場する女たちが男よりはるかに強いせいもあるだろう。脇役として登場する女たちの殆どが自己中で淫乱で頭が悪そうなのに、見ていて腹が立たない。懐かしいけど戻りたくない青春の80年代に、40男の中身はそのまま(外見は当時に戻っている)でタイムスリップしてしまうおかしさが十分描かれ、同時にほろ苦さも感じさせてくれる。キューザックの演じるアダムはどちらかといえば、とんでもない状況下での真顔なおかしさとほろ苦さを表現し、彼のスウィートさが久々に発揮されている。彼の着ている紺のダウンベストとジーンズも、今でも通用しそうな普通さだ。一方、友人のルー(ロブ・コードリー)とニック(「オフィス」のクレイグ・ロビンソン)、特に自己破壊的なルーはクレイジーさを表現している。ラストはご都合主義的で、タイムトリップの理論もアバウトだが、そういった点に突っ込むのではなく、バカさを大いに楽しむべき作品。カルト映画のクラシックになるかもしれない。